「給与はどう上がりますか」に答えられない。評価制度がない薬局の説明の作り方
面接の終盤、候補者から「給与はどのように上がっていきますか」と聞かれる。多くの薬局・ドラッグストアで必ずと言っていいほど出る質問ですが、評価制度を整備していない会社では「がんばりを見て社長が決めています」「だいたい毎年少しずつは上がっています」といった答えになりがちです。嘘ではないのに、候補者の表情が曇る。この一往復で、それまで積み上げた印象が下がってしまうことがあります。
ここで必要なのは、人事制度を一から設計することではありません。すでに起きている昇給の事実を並べ直し、「何ができた人が、いくら上がったのか」を言葉にするだけでも、面接での答えは変わります。この記事では、制度がない前提のまま説明を作る手順を、順番に整理します。
「制度がない」と「説明がない」は別の問題
候補者が知りたいのは、精緻な評価シートの存在ではありません。3年後の自分の給与が今よりどのくらい違うのか、そのために何を求められるのか、という見通しです。
裏を返せば、制度そのものがなくても、見通しさえ示せれば質問には答えられます。逆に、立派な評価制度があっても運用が形骸化していれば「制度はありますが実際は社長判断です」と言うことになり、印象は同じです。最初に着手すべきは制度の新設ではなく、説明の言語化です。
なお、提示額そのものの決め方や、既存社員との金額バランスは別の論点です。そちらは中途薬剤師に高く出すと、既存社員が辞める。給与の内部公平性をどう保つかで扱っています。
過去3年の昇給実績を1枚に並べる
最初の作業は、記憶ではなく記録から始めます。給与台帳を開き、在籍者について過去3年分の昇給を書き出します。人数が多ければ、常勤薬剤師だけに絞っても構いません。
| 列項目 | 何を書くか |
|---|---|
| 氏名・入社年 | 経験年数がわかるように |
| 各年の昇給額 | 基本給の増減。手当は分けて記載 |
| 役割の変化 | 管理薬剤師就任、新人指導、在宅担当など |
| 昇給が大きかった年の理由 | 当時の判断を思い出して一言で |
| 昇給がなかった年の理由 | 業績・本人要因のどちらか |
並べると、たいてい傾向が見えてきます。「管理薬剤師になった年に大きく上がっている」「在宅を一人で回せるようになった人が伸びている」「3年目までは横並びで、その後に差がついている」。これが、すでに自社に存在している評価軸です。新しく作るのではなく、掘り出す作業だと考えてください。
「何ができたら上がったか」を3〜4段階に粗く区切る
次に、掘り出した軸を段階に整理します。細かく刻むほど運用が破綻するので、最初は3〜4段階で十分です。
| 段階 | 状態の目安 | 任せる範囲 |
|---|---|---|
| 1 | 指導のもとで投薬・調剤ができる | 日常業務を先輩と一緒に |
| 2 | 一人で日中を回せる | 一人当番、疑義照会の判断 |
| 3 | 店舗を任せられる | 管理薬剤師、シフト調整、在宅の主担当 |
| 4 | 複数店舗・育成に関わる | 新人指導、エリア横断の業務 |
段階ごとの給与は、レンジ(幅)で置きます。「2の人はおおむねこのあたり」という幅があれば、面接でも社内でも説明できます。金額を一点で決めきる必要はありません。
段階を切るときの注意点は、上の段階に管理職しか置かないことです。管理薬剤師になりたくない人が行き止まりになり、それが2〜3年目の離職理由になることがあります。役割の見せ方は若手が管理薬剤師になりたがらない。昇進をキャリアパスとして見せ直すも参考にしてください。
面接での答え方の型
材料が揃えば、答え方は定型化できます。次の4点を、この順番で話します。
- 現状の説明を正直に置く(「精緻な等級表はまだありませんが、上がり方の考え方は決めています」)
- 段階と、そこで任せる範囲を伝える
- 自社で実際に起きた上がり方を一般化して話す(「一人で回せるようになった頃と、店舗を任せた時点で見直すことが多いです」)
- 見直しの時期と、誰が判断するかを言う
避けたいのは、根拠のない上振れです。「がんばり次第でいくらでも」は、入社後の落差になって返ってきます。具体的な条件提示の場面での伝え方は薬剤師への条件提示で失敗しない。オファー面談で決めておくことに整理しています。
作った説明は、既存社員にも同時に伝える
ここを飛ばすと、かえって不信を招きます。候補者に「3年目でこのくらい」と話した内容が、在籍者の実態と食い違っていれば、入社後すぐに本人の知るところとなります。既存社員が求人票を見て「自分は聞いていない」と感じる事態も起きます。
面接用の説明を固めたら、同じ内容を社内でも共有してください。伝え方は、全員向けに段階と考え方を説明し、個別面談で「あなたは今この段階で、次はここ」と対応づけるのが現実的です。過去の昇給と整合しない人が出た場合は、その場で無理に理屈をつけず、次回の見直しで調整する前提を伝えるほうが納得を得やすくなります。
最小版で運用を始め、年に一度、段階の定義と幅を見直す。制度を完成させてから使い始めるより、使いながら直すほうが、面接で答えられる状態に早く届きます。
進め方に迷ったら
昇給の説明は、採用の訴求であると同時に定着の土台です。とはいえ、自社の昇給実績をどう切り分け、どこまでを面接で話すかは、店舗数や年齢構成によって変わります。
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