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他社と迷っている候補者に、最後の一押しで何を出すか

最終面接を終えた薬剤師に内定を伝えたところ、「ありがとうございます。実はもう一社、選考が進んでいまして」と返ってきた。新卒の薬学生から「他社の内定も出ていて、まだ決めきれていません」とメールが来た。このとき、多くの会社が反射的に考えるのが「いくら上乗せすれば決まるか」です。

ただ、金額で競り勝った採用は、入社後にその金額が基準になります。同じ理屈で他社から声がかかればまた動く可能性が残りますし、既存社員との差が生まれれば別の問題も起きます。この記事では、迷っている候補者に対して最後に何を出すかを、質問で迷いの中身を分解するところから順に整理します。

金額の上積みで競うと、何が残るか

条件の上積みそのものが悪いわけではありません。提示額が相場から明らかに低く、それが迷いの原因なら見直すべきです。問題は、迷いの理由を確かめないまま「あと2万円出します」と反射的に返すことにあります。

この進め方には二つの副作用があります。ひとつは、候補者が入社を決めた理由が「金額を上げてくれたから」になること。業務内容や人間関係に不満が出たとき、それを埋める根拠が金額しかなくなります。もうひとつは、既存社員との逆転です。この点は中途薬剤師に高く出すと、既存社員が辞める。給与の内部公平性をどう保つかで整理していますが、急いで決めた1名分の上積みが、在籍者数名の不満に波及することがあります。

また、条件で競った場合、相手が大手チェーンなら追随される可能性が高い。同じ土俵に乗った時点で不利になりやすい構造です。

まず、迷いの中身を3つの質問で分解する

「他社と迷っている」は状態の説明であって、理由ではありません。何と比べて、何が引っかかっているのかを聞かないと、出す材料が決まりません。聞き方は率直で構いません。「差し支えない範囲で教えてください」と前置きすれば、多くの候補者は答えてくれます。

質問聞き出したいこと答えから分かること
「今の時点で、決め手になりそうなのはどの点ですか」本人の優先順位給与か、通勤か、業務内容か。上位3つが分かれば出す材料が絞れる
「比較されている会社の、どこに魅力を感じていますか」相手の強み自社が追えるものか、追えないものか。追えないなら別軸で答える
「いつ頃までに決めたいとお考えですか」候補者側の時間軸相手の選考日程が透けて見える。こちらの期限設定の前提になる

3つ目を聞くことが特に重要です。候補者は「他社の最終面接が来週ある」といった事情を抱えていることが多く、それを知らないまま「今週中にお返事を」と迫ると、決められないまま断られます。

なお、迷いが「配属される店舗が分からない」ことに起因しているケースは相当あります。これは材料を出す前に答え方を整えるべき論点で、配属店舗をいつ伝えるか。決まっていない段階での答え方にまとめています。

会社が出せる、金額以外の材料

分解した迷いに対して、条件表に載っていない部分で応じます。中小の薬局・ドラッグストアは、ここで動ける幅が大手より広いことが多い。

  • 配属店舗の確約:口頭ではなく書面に残す。「原則として○○店。変更が必要になる場合は3ヶ月前に相談する」まで書けると、不安は大きく下がります
  • 同行・指導期間の明示:「入社後1ヶ月は管理薬剤師が同席、独り立ちの判断は本人と面談のうえ」など。ブランクがある方や経験の浅い方には、給与より効く場合があります
  • 勤務日・時間の融通:子どもの行事、介護、通院。「相談可」ではなく「水曜は16時上がりで組みます」と具体化する
  • 現場スタッフとの面談機会:役員面接しか受けていない候補者にとって、一緒に働く人と話せる場は判断材料として大きい。営業時間内に30分、店舗で話す形で十分です
  • 入社日の後ろ倒し容認:在職中の中途では、引き継ぎの都合が本音の懸念であることがあります

これらは追加コストがほとんどかからない一方、候補者からは「この会社は自分の事情を聞いてくれた」と受け取られます。出す順番としては、質問で分かった優先順位の1位に対応するものから1〜2個。全部並べると、かえって必死さだけが伝わります。

中途と新卒で、使える材料は違う

中途薬剤師新卒(薬学生)
迷いの中心通勤・勤務時間・業務内容・在職先との比較配属地、初年度に任される範囲、国家試験前の扱い、家族の意見
効きやすい材料配属確約、同行期間、シフトの具体化、入社日の調整1年目の育成計画、現場の若手との面談、入社前の連絡頻度
時間軸数日〜2週間で決着することが多い内定から入社まで数ヶ月〜1年近く空く
注意点在職先の引き止めが後から来る一度承諾しても、長い期間のあいだに気持ちが動く

新卒の場合、「最後の一押し」で承諾を得ても、そこが終点ではありません。国家試験を挟む長い空白期間の設計まで含めて考える必要があり、その全体像は新卒の内定辞退を防ぐ。内定から入社までのフォロー設計で扱っています。また、薬学生は保護者と相談して決めることが多いため、家庭で見せられる資料を渡せるかどうかも材料のひとつになります。

返事の期限を、角を立てずに伝える

期限を置かないと、候補者は他社の結果が出るまで動きません。ただ「いつまでに返事をください」だけでは圧力になります。伝え方には型があります。

ひとつ、理由を添える。「採用枠の関係で、他の方への連絡を保留にしているため」「入社前の研修日程を組む都合で」など、会社側の事情として説明します。ふたつ、候補者の時間軸に合わせる。先ほどの3つ目の質問で「再来週には決めたい」と聞いていれば、「では○月○日までにいただけますか」と本人の申告に沿って置けます。みっつ、延長の可否を先に言っておく。「難しければご相談ください。延ばせる場合もあります」と添えるだけで、追い詰められた感じは薄れます。

そのうえで、期限を過ぎて連絡がない場合にどうするかは社内で決めておきます。一度だけ連絡して、それでも反応がなければ次の候補者に進む。この線引きがないと、採用活動全体が1人の返事待ちで止まります。欠員が出ている店舗を抱えている場合は特に、並行して進める前提が必要です。

最後の一押しは、その場で作るものではない

ここまで挙げた材料は、候補者から「迷っています」と言われてから考え始めると間に合いません。配属を確約できるのか、同行期間を何日取れるのか、シフトをどこまで動かせるのか。これらは現場と事前に握っておくべき事項で、決裁の場が用意されていないと、その場しのぎの金額提示に戻ってしまいます。

条件提示の段階で何を書面化しておくかは薬剤師への条件提示で失敗しない。オファー面談で決めておくことにまとめました。オファー面談の設計と、最後の一押しの材料は地続きです。

Talencoでは、採用戦略の設計から選考・内定フォロー・初期定着までを伴走で支援しています。実務は自社で進めたい場合の伴走コンサルティングと、実務まで一貫して対応するフルサポートの2つのプランがあり、体制や採用人数に応じてお見積りします。詳しくは支援プランをご覧ください。

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