募集を出す前に、自社の労働条件を点検する
求人票のひな形を開いて、年間休日の欄で手が止まる。「だいたい週休2日だけど、店舗によって違う」「残業は多くないはずだが、記録を見ていない」「有給は取れるが、何日取られているかは把握していない」。募集を出す直前になって、自社の労働条件を正確な数字で書けないことに気づく会社は珍しくありません。
このとき多くの場合、とりあえず近隣の他社の求人を見て似た数字を入れてしまいます。しかし求人票に書いた条件は、入社時に交付する労働条件通知書、そして就業規則とつながっています。三つがずれていると、入社後に「話が違う」という問題が起きやすくなります。募集を出す前の数日を、条件の点検に使う価値はここにあります。
点検する項目は5つ
採用の原稿を書く前に、次の5項目を事実として確認します。感覚ではなく、記録や規程の該当箇所を見て確かめるのがポイントです。
| 項目 | 確認する場所 | よくあるつまずき |
|---|---|---|
| 年間休日の実数 | 就業規則の休日条項、年間カレンダー | 店舗ごとに営業日が違い、会社として一つの数字が出せない |
| 残業の実績 | 直近1年の勤怠記録 | 記録が自己申告で、実態より少なく見えている |
| 有給の取得状況 | 年次有給休暇管理簿 | 付与日数は分かるが、取得日数を集計していない |
| シフトの決まり方 | 実際の運用 | 希望提出の締切や、誰が最終決定するかが決まっていない |
| 賃金規程との整合 | 賃金規程、既存社員の支給実績 | 求人票に書こうとしている金額が規程の範囲を超えている |
このうち年間休日と有給の扱いは、候補者が条件比較の最後に見る論点でもあります。数え方や実績の出し方は「休みやすさ」を求人でどう書くか。年間休日と有給の実態の出し方で詳しく整理しているので、そちらもあわせてご確認ください。
点検の目的は、きれいな数字を作ることではなく、書ける数字と書けない数字を仕分けることです。 書けない項目が見つかった時点で、この記事の本題に入ります。
書けない項目が出たときの三択
実態を書けない項目が出てきたら、取れる対応は大きく三つです。どれを選ぶかは、募集の急ぎ度と、直すのに必要な期間で決まります。
| 選択肢 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 先に直す | 制度そのものが法令や規程と合っていない、採用の主要な訴求になる条件 | 就業規則の変更や周知に時間がかかる。既存社員への説明が先 |
| 条件を限定して書く | 店舗や雇用形態によって実態が大きく違う | 「当社全体」ではなく「◯◯店の正社員の場合」と範囲を明示する |
| 運用の工夫とセットで書く | すぐには直せないが、負担を軽くする手当や代休がある | 工夫の部分も実際に運用されている事実に限る |
先に直す
典型は、就業規則の記載と実際の運用がずれているケースです。規程上の所定労働時間と実際のシフトが合っていない、みなし残業の時間数が規程に書かれていない、といった状態で募集を出すと、入社後の説明が成り立たなくなります。この場合は募集を数週間遅らせてでも、規程の側を実態に合わせるか、運用を規程に戻すほうが安全です。
条件を限定して書く
「年間休日は店舗によって違う」という状態は、無理に会社全体で一つの数字にまとめる必要はありません。募集対象の店舗を絞り、その店舗の実数を書く。複数店舗で募集するなら、店舗ごとに原稿を分ける判断もあります。曖昧な一本より、範囲を限定した正確な一本のほうが応募後の離脱は減りやすくなります。
運用の工夫とセットで書く
在宅の緊急対応や当番があるなど、負担そのものをすぐにはなくせない条件もあります。この場合は隠すのではなく、回数・手当・代休・輪番のルールを一緒に示します。具体的な書き方は夜間・時間外対応がある店舗の募集。負担を隠さずに書くで整理しています。どこまで開示するかの線引きに迷う場合は、入社前に悪い情報をどこまで伝えるか。開示の範囲を決めるも参考になります。
求人票・労働条件通知書・就業規則を同じ目で見る
この三つは、候補者から見ると一本の線でつながっています。
- 求人票:応募を決める材料
- 労働条件通知書:入社時に交付する、個別の労働条件
- 就業規則:会社全体の共通ルール
求人票で「年間休日120日」と書き、労働条件通知書には別の数字が入り、就業規則の休日条項はさらに違う。この状態で入社した人が気づくのは、たいてい入社後1〜2ヶ月です。そして気づいた時点で、信頼の回復はかなり難しくなります。
点検の実務としては、求人票に書こうとしている項目を一覧にし、それぞれについて「労働条件通知書のどの欄に対応するか」「就業規則の第何条に根拠があるか」を書き添えてみる方法があります。根拠を書けない項目が、そのまま要確認リストになります。
労働条件の明示事項や就業規則の記載事項は、法令改正によって変わることがあります。みなし残業(固定残業代)の表記、変形労働時間制の扱い、有給の取得義務といった領域は特に細部の判断が分かれるため、最終的な文面は顧問社労士に確認してから募集を出してください。 自社で全部を判断しようとすると、かえって時間がかかることが多いものです。
点検は募集の何週間前からか
目安として、就業規則の変更を伴わない点検(実績の集計と原稿への反映)であれば1〜2週間、規程の見直しまで踏み込むなら1〜2ヶ月を見ておくと動きやすくなります。あくまで目安で、会社の規模や社労士の稼働によって変わります。
急ぎの欠員補充で、そこまで待てない場合もあります。そのときは「先に直す」を諦めて、条件を限定して書く選択に寄せる。そして採用が一段落した時点で、規程の見直しを改めて計画に載せる。このように、募集の緊急度と条件整備を切り離して考えると、手が止まりにくくなります。
点検で出てきた課題は、求人票だけの問題ではなく、既存社員の定着にもそのままつながっています。募集前の数日は、採用準備であると同時に、自社の働き方を言葉にする機会でもあります。
条件の点検をどこまでやるか、どこから手をつけるかは、採用したい人数や時期によって変わります。株式会社Talencoでは、採用戦略の設計から募集・選考・入社後の初期定着まで伴走する支援プランをご用意しています。実務は自社で進めたい場合の伴走コンサルティングと、実務まで一貫して対応するフルサポートの2つから、体制に合わせて組み立てます。
まずは無料相談(約30分〜・オンライン)で、現状の条件と募集スケジュールを伺いながら、採用設計をご一緒させてください。