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転勤・店舗異動のルールを決めて、求人と面接で開示する

求人票の「転勤の有無」の欄で手が止まる、という相談をよく受けます。複数店舗を持っていれば異動は起こりうるので「転勤あり」と書くしかない。しかし「あり」と書いた途端に応募が減る感触もある。かといって「基本的に転勤はありません」と伝えて採用した薬剤師に、半年後の欠員で隣の市の店舗へ移ってもらったら、そこから数ヶ月で退職された——このどちらかを経験している会社は少なくありません。

問題は「あり」か「なし」かの二択で答えようとしていることにあります。候補者が知りたいのは異動の有無そのものではなく、自分の生活がどこまで動く可能性があるかです。配属先をいつ伝えるかという論点は配属店舗をいつ伝えるか。決まっていない段階での答え方で扱っていますので、この記事では入社後の異動そのもののルールを社内で決め、文書にし、開示するまでの手順を整理します。

「転勤あり」と書くと応募が減り、「なし」と言うと辞められる

この構造を分解すると、原因は同じところにあります。会社が異動のルールを持っていないことです。

ルールがないと、求人票には最も広い可能性を書くしかありません。全店舗が異動範囲になり、県をまたぐ可能性もゼロとは言えない。結果として「転勤あり(全店舗)」という、候補者から見れば最大リスクの表記になります。通勤時間や家庭の事情で動けない薬剤師は、この一行で応募をやめます。

逆に、採用を急ぐ現場が「うちはほとんど異動ないですよ」と口頭で言ってしまうこともあります。その場では嘘ではなかったとしても、欠員や新店が出れば動いてもらう必要が生じます。聞いていた話と違う、という感覚は、異動の距離そのものよりも強く退職の引き金になります。

つまり、どちらの失敗も「決めていないことを、その場の都合で答えている」点で同じです。先に決めて文書にすれば、求人票には実態に近い狭い範囲を書けるようになり、口頭での安請け合いも減ります。

社内で先に決める4項目

異動のルールは、次の4つを決めれば求人票にも面接にも使える形になります。経営者だけで決めず、店舗運営の責任者と一緒に、過去3年に実際に起きた異動を並べながら決めると現実的なものになります。

項目決めること決め方の目安
範囲どの店舗まで異動の対象か通勤時間の上限(例:自宅から片道◯分以内)か、エリア(例:◯市・◯町の店舗のみ)のどちらかで線を引く
頻度どのくらいの間隔で起こりうるか過去3年の実績から「何年に1回程度」を出す。実績がなければ「原則なし」と書ける
事前告知打診から異動日まで何日空けるか最短何日・通常何週間かを2段階で決める
本人希望いつ、誰が、何を聞くか年1回の面談で確認するなど、聞くタイミングを固定する

範囲は「通勤時間で切る」ほうが候補者には伝わりやすい傾向があります。店舗名を並べても土地勘のない人には判断できませんが、「自宅から片道45分以内の店舗」なら誰でも自分に当てはめられます。引越しを伴う異動を想定するかどうかは別問題で、住宅補助や赴任費用の設計とセットになります。こちらは転居してもらう採用。住宅補助と引越し支援をどこまで出すかを参照してください。

本人希望の聞き方は、形だけにならないよう「聞いた希望をどこまで反映するか」も決めておきます。「希望は聞くが確約はしない」「通勤時間の上限は本人の申告を上限として扱う」など、約束できる範囲を言葉にしておくと、面談で曖昧な返事をせずに済みます。

例外が起きる場面を、先に書いておく

ルールを決めても、例外は起こります。むしろ例外のほうを先に書いておくことが、この文書の肝です。薬局・ドラッグストアで異動が発生する場面は、だいたい次のどれかに収まります。

  • 欠員補充:退職・産休・長期休職で店舗の薬剤師配置が維持できなくなったとき
  • 新規出店:新店の立ち上げに既存店から人を出すとき
  • 本人の希望:通勤・家庭事情・業務内容を理由に本人から申し出があったとき
  • 育成・昇格:管理薬剤師候補として処方科目の違う店舗を経験してもらうとき

このうち、候補者が不安に思うのは最初の2つです。だからこそ「欠員や新規出店の際は、範囲内の店舗で一時的に勤務をお願いすることがあります」と書いておきます。例外を書くことで応募が減るより、書かずに後から発動して辞められるほうが損失が大きいという前提で判断します。

一時的な応援と、恒久的な配属変更を区別しておくことも有効です。「応援は最長◯ヶ月まで、それを超える場合は改めて配属として打診する」と決めておけば、現場も候補者も見通しが立ちます。欠員が出たときの店舗運営の優先順位そのものについては薬剤師が採れるまでの間、店舗をどう回すか。欠員時の優先順位で整理しています。

求人票と面接での書き方・伝え方

決めた内容を、求人票では短く、面接では詳しく開示します。同じ内容を粒度を変えて二度出す形です。

場面伝える粒度表現例
求人票(転勤欄)範囲と頻度を1〜2行「転居を伴う転勤なし。ご自宅から片道◯分以内の◯市内店舗のみ」
求人票(備考)例外の明示「欠員や新規出店時に、上記範囲内で勤務店舗の変更をお願いする場合があります(過去3年の実績:◯件)」
一次面接範囲の確認「通勤できる範囲を教えてください。こちらの対象店舗は◯店で、最も遠いところで片道◯分です」
最終・条件提示告知期間と希望の扱い「異動の打診は原則◯週間前までに行います。年1回の面談で勤務地の希望を確認します」

「過去3年の実績:◯件」のような数字は、自社で数えられる範囲で出します。出せない場合は無理に書かず、「直近3年は実績がありません」「毎年1〜2名程度です」といった事実ベースの表現にとどめてください。曖昧な「原則ありません」は、候補者には「あるかもしれない」としか読まれません。

条件提示の段階では、口頭ではなく書面に残します。労働条件の明示では就業の場所と変更の範囲を伝えることになっていますが、法令上の最低限とは別に、自社で決めた範囲・告知期間・希望の聞き方まで書いておくと、入社後の認識違いが減ります。記載の様式や必要事項は年度や省令改正で変わることがあるため、最新の様式を確認してください。開示する情報の線引き全般については入社前に悪い情報をどこまで伝えるか。開示の範囲を決めるもあわせてどうぞ。

決めたら、現場の言葉を揃える

文書を作っても、面接官や店長が別のことを言えば意味がありません。面接を店長や管理薬剤師が担当している会社では、次の3点だけでも共有しておくと食い違いが減ります。

  1. 言ってよいこと(範囲・告知期間・過去の実績)
  2. 言ってはいけないこと(「まず異動はない」といった確約)
  3. 判断に迷ったときの返し方(「確約はできないので、決まっているルールをお伝えします」)

異動のルールは、採用のためだけのものではありません。在籍している薬剤師にとっても、自分がいつどこへ動く可能性があるかが見えることは働き続ける条件になります。採用向けに作った文書を社内にも共有し、既存社員の希望も同じ面談で拾うようにすると、運用が二重になりません。


異動の範囲をどこで切るかは、店舗網の構成や出店計画、既存社員の居住地によって答えが変わります。求人票の表現だけを直しても、裏付けとなるルールがなければ面接で崩れます。

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