他社に籍がある薬剤師を週1で受け入れる。副業・兼業の可否と条件
常勤の求人を出しても応募がなく、パートの枠も埋まらない。そんな状態が半年以上続いている薬局やドラッグストアは珍しくありません。一方で、他の薬局や病院に籍を置いたまま「週1日なら働けます」という薬剤師が、求人媒体やスカウトへの返信で現れることがあります。常勤を待ち続けるより、こうした人を複数名で組み合わせるほうが現実的なケースがあります。
ただし副業・兼業の受け入れは、通常のパート採用とは確認すべき項目が違います。本人の希望だけで話を進めると、本業側とのトラブルや労働時間の管理漏れにつながります。ここでは受け入れ側が何を確認し、何を決めてから迎えるかを整理します。
受け入れる前に確認する3つの論点
1. 本業側で副業が認められているか
最初に確認するのは、本人が在籍している会社の就業規則です。副業を許可制にしている企業は多く、届出や申請を経て初めて認められる形が一般的です。禁止されている場合や、申請を出していない状態で働き始めると、発覚時に本業を辞めるか当社を辞めるかという選択を本人に迫ることになります。
面接では「本業の就業規則で副業の扱いはどうなっていますか」「申請は済んでいますか、これからですか」を口頭で確認し、応募者本人に手続きを進めてもらったうえで初出勤日を決めるのが安全です。企業側が本業に直接問い合わせることは通常しません。
2. 労働時間は通算されるという枠組み
労働基準法では、複数の事業場で働く場合でも労働時間に関する規定の適用については通算する、という考え方が取られています。つまり、本業で週40時間働いている薬剤師が当社で週8時間働けば、その8時間は法定時間を超える部分として扱われ、割増賃金の支払い義務が生じる場合があります。原則として、後から労働契約を結んだ側(この場合は当社)が割増分を負担する整理になることが多い枠組みです。
厚生労働省は副業・兼業に関するガイドラインを公表しており、労働時間の申告方法や、あらかじめ上限を決めておく管理の型についても示されています。ただし運用の詳細は個別事情で判断が分かれるため、時給額と支払い方を決める前に社会保険労務士に確認してください。 内容は改定されることがあるので、最新版を参照する前提で進めます。
あわせて、健康確保の観点も抜けやすい点です。本業と合わせて週何時間までなら受け入れるか、繁忙期に本業の残業が増えたときはどうするかを、採用時に本人と決めておきます。
3. 守秘義務と競業の線引き
同業他社に籍がある薬剤師を迎える以上、患者情報や仕入条件、社内マニュアルの扱いは明文化しておきます。書き方は「本業の情報を当社に持ち込まない」「当社の情報を外部に出さない」の双方向です。片側だけの誓約書は、本業側から見れば情報流出の懸念材料になります。
競業については、同一商圏の直接の競合に在籍している場合、相手企業の規程で兼業が明確に禁じられていることがあります。そこを無理に押すと、本人が不利益を被ります。処方元の病院に勤める薬剤師を受け入れる場合も、利益相反と受け取られないかを事前に整理しておきます。
なお、管理薬剤師は薬機法上、原則としてその薬局の管理を実地に行う立場であり、許可がなければ他の場所で薬事に関する実務に従事できないという枠組みがあります。本業で管理薬剤師をしている人を副業で迎えるのは、この点だけで難しいことが多いと考えてください。詳細な要件と手続きは所管の自治体に確認します。
| 確認事項 | 誰に確認するか | いつまでに |
|---|---|---|
| 本業の副業規程と申請状況 | 応募者本人 | 面接時 |
| 労働時間の通算と割増の扱い | 社会保険労務士 | 条件提示の前 |
| 社会保険・雇用保険の加入要否 | 社会保険労務士 | 条件提示の前 |
| 守秘・情報持ち込みの誓約 | 自社(書面を用意) | 入社手続き時 |
| 管理薬剤師の兼務可否 | 所管自治体・本人 | 選考の早い段階 |
契約の形をどう置くか
週1日の勤務でも、当社の指示に従って所定の時間に出勤し、調剤や鑑査を担う以上は雇用契約(パート・アルバイト)が基本になります。業務委託にすると管理が楽に見えますが、実態が指揮命令下の労働であれば契約名称にかかわらず労働者として扱われる可能性があります。ここも社労士確認の対象です。
社会保険・雇用保険の加入要否は、所定労働時間や賃金などの要件で判断が変わります。要件は改定されることがあるため、最新の基準で確認してください。募集の段階で「週1日・1日8時間」のように具体的に書いておくと、応募者側も本業と合わせた見通しを立てやすくなります。時間の刻み方が応募数に効く点はパート薬剤師が集まる募集条件のつくり方でも整理しています。
任せる業務を決めずに迎えると現場が疲弊する
副業受け入れで最も起きやすい失敗は、週1で来る人に常勤と同じ範囲を任せようとして、毎回誰かが説明に張り付くことです。月4回しか来ない人は、店舗のローカルルールや処方元の変更点を追いきれません。それは本人の能力の問題ではなく、接触頻度の問題です。
そこで、迎える前に業務を三段階に分けておきます。
| 区分 | 業務の例 | 準備しておくもの |
|---|---|---|
| 任せる | 調剤、監査、一般的な服薬指導、在庫の確認 | 1枚の手順書、レセコン操作メモ |
| 条件付き | 疑義照会、複雑な加算算定、新患対応 | 相談先の常勤を毎回指名 |
| 任せない | 在宅訪問、処方元との交渉、新人指導 | ― |
そのうえで、来店時に渡す「前回からの変更点メモ」を用意します。処方元の変更、新規採用薬、シフトや設備の変更を数行でまとめたA4半分程度のもので十分です。これがないと、出勤のたびに口頭での引き継ぎが発生し、受け入れ側の負荷が積み上がります。
指導役や相談先を誰にするかを明示しておく点は、新しく入る人全般に共通します。入社直後の受け入れ設計については入社3ヶ月で辞められる薬局。最初の90日にやることを決めておくも参考になります。
週1の受け入れを、どこに位置づけるか
副業人材は欠員をそのまま埋める手段にはなりにくく、常勤1名分を複数の短時間勤務者で分担する設計の一部として考えるのが現実的です。派遣やパートと同様、「時間を買っている」状態であることを前提に、常勤採用の動きは並行して続けます。この考え方は派遣薬剤師をいつまで使うか。直接雇用への切り替えを設計するで扱った整理と近い構造です。
一方で、週1で関わった薬剤師が職場を知ったうえで転職を検討する、というつながり方もあります。実際に働いてもらう期間は、企業側にとっても相互の見極めの機会になります。そのため、短時間だからと関わりを薄くせず、面談を年1回でも設けておくと次の展開につながりやすくなります。
まとめ
副業・兼業の薬剤師を受け入れるかどうかは、本業側の許可、労働時間の通算、守秘と競業という3点を確認できるかで決まります。制度面は社労士や自治体への確認が前提ですが、その手前で決められることも多くあります。任せる業務の線引き、相談先の指名、変更点メモの用意。この3つがないまま迎えると、人が増えても現場の負担は減りません。
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