薬剤師以外の本部人材をどう採るか。事務長・エリア担当のポジション設計
店舗が3つ、5つと増えてきたあたりで、経営者の手元に仕事が溜まり始めます。レセプトの点検、社会保険の手続き、シフトの最終調整、卸との価格交渉、新規物件の情報収集、監査対応の書類づくり。どれも店舗の薬剤師には振りにくく、かといって経営者が全部抱えると出店も採用も止まる。そこで「本部の人を採ろう」と考えるのですが、いざ求人を出してみると、薬剤師の募集のときほど反応の読み方が分からない、という状態になりがちです。
本部人材の採用が難しいのは、資格で候補者を絞れないからです。薬剤師なら「免許を持っているか」で母集団の輪郭が決まりますが、事務長やエリア担当にはその線がありません。だから、まず自社側で「何をやってもらう人か」を言葉にするところから始める必要があります。
まず、経営者が抱えている業務を書き出す
ポジション名を先に決めないでください。「事務長を採る」と決めてから仕事を考えると、職務内容が「総務全般」のような曖昧な記述になり、応募者は自分がやる仕事を想像できません。
やることは単純で、直近1〜2ヶ月で経営者・役員が実際に使った時間を書き出します。粒度は「レセプト返戻の対応」「新人の雇用契約書作成」「在庫過多店舗への移動指示」程度でかまいません。書き出したら、3つに分類します。
| 分類 | 内容 | 本部ポジションへの扱い |
|---|---|---|
| 経営者しかできない | 出店の最終判断、金融機関対応、M&Aの交渉 | 手放さない |
| 手順が決まっている | 給与計算の元データ、保険手続き、備品発注、請求書処理 | 未経験者でも引き取りやすい |
| 判断が要るが委任できる | 店舗シフトの調整、人員配置の原案、卸との条件交渉、店舗巡回 | 経験者か、育成前提で任せる |
この分類を終えると、ポジションが自然に見えてきます。真ん中の塊が大きければ管理部門の実務担当(いわゆる事務長・管理部長候補)、下の塊が大きければ複数店舗を見るエリア担当(スーパーバイザー)です。両方を一人に載せると、該当する人がほとんどいない求人になります。
業界未経験でよいのは、どこまでか
本部人材の募集で最も迷うのが「調剤の経験が要るか」です。結論から言うと、要件に入れるかどうかは業務の中身で分かれます。
調剤報酬の算定ルール、薬機法や保険調剤に関わる手続き、薬剤師法上の管理体制といった領域は、業界内で覚えるしかない部分が残ります。一方で、労務手続き、経理、請求処理、採用事務、ITツールの運用、数字の集計と報告といった仕事は、他業界の管理部門経験がそのまま効くことが多い領域です。
線引きの目安を表にします。制度の詳細は改定で変わるため、自社の実務に合わせて読み替えてください。
| 領域 | 業界未経験から学べるか | 補い方 |
|---|---|---|
| 労務・給与・社会保険 | 学ばなくても他業界の経験が効く | 薬局特有のシフト構造だけ説明する |
| 経理・請求・支払 | 同上 | 卸取引と薬価の仕組みを初期に説明 |
| レセプト点検・返戻対応 | 入社後に習得が必要 | 既存の事務スタッフか社労士・顧問と並走 |
| 調剤報酬の加算要件の理解 | 入社後に習得が必要 | 管理薬剤師が解説役に入る期間を設ける |
| 店舗巡回・スタッフ面談 | 他業種の店舗運営経験が効く | 薬剤師業務の線引きを先に教える |
| 行政対応・監査書類 | 経営者が当面持ったほうがよい | 2年目以降に段階的に移管 |
未経験可とする場合は、求人票に「入社後3〜6ヶ月で覚えてもらう範囲」を書いておくと、応募時点の不安が減ります。書き方の考え方は薬剤師の求人票に応募が来ない。原稿を書き直す順番の整理が、職種が違っても使えます。
薬剤師を本部に上げる案と比べる
「外から採るより、ベテランの薬剤師を本部に異動させればいいのでは」という案は、必ず一度は検討の俎上に載ります。どちらが良いかは状況によりますが、判断材料は整理できます。
社内から上げる場合の利点は、現場感覚があること、スタッフからの信頼が最初からあること、調剤報酬や現場の事情を説明しなくていいことです。一方で、店舗から一人抜ける穴を埋める採用が別途発生します。薬剤師の採用が難しい状況で、最も採りにくい職種を一人本部に回す判断になる、という点は見落とされがちです。
外から採る場合は、店舗の人員に手をつけずに本部機能を足せます。代わりに、業界の前提をゼロから説明する期間が要ります。
現実的には、両方を組み合わせる形になることが多いです。制度や数字まわりは外部から採った管理部門人材が持ち、現場判断とスタッフ対応は社内の薬剤師が兼務で持つ。このとき、兼務する薬剤師の負荷と評価の扱いを決めておかないと、本人が疲弊します。管理職を任せる話の進め方については若手が管理薬剤師になりたがらない。昇進をキャリアパスとして見せ直すも参考になります。
店舗スタッフから見た「本部の人」をどう説明するか
本部人材を採るときに準備が抜けやすいのが、現場への説明です。店舗から見ると、現場を知らない人が増えて、指示だけが降りてくるように見えることがあります。この印象がつくと、巡回に行っても本音が出てこなくなります。
説明の順番としては、以下を入社前に決めて、入社時に店舗へ伝えると摩擦が減ります。
- その人が引き取る業務を具体名で挙げる(例:シフト表の最終調整、備品発注、保険手続き)
- 店舗が今後その人に連絡してよいこと/これまで通り経営者に上げること
- 評価や人事の決定権を持つのか、持たないのか
- 最初の数ヶ月は「覚える期間」であり、店舗に質問する立場であること
最後の一点を明示しておくと、入社直後の本部人材が現場に質問しやすくなります。現場を巻き込む説明の組み立てそのものは現場が採用に協力してくれない。店舗を巻き込むための説明の順番で詳しく扱っています。
募集するときの実務
本部人材は薬剤師と母集団が違うため、チャネルも変わります。薬剤師専門の媒体ではなく、地域の総合求人媒体、検索型の求人サイト、ハローワークのほうが届きやすいことが多いです。紹介会社を使う場合も、薬剤師に強い会社とは別の窓口になることがあります。
職種名は「事務長」だけだと検索で拾われにくいため、「経理・労務(管理部門)」「店舗運営サポート」のように、他業界の人が自分の経験と結びつけられる語を併記するのが実務的です。給与レンジは薬剤師とは別の相場で考える必要があり、社内の既存職種との関係も含めて事前に決めておきます。
高卒での採用を検討する場合は、学校経由の手続きや一人一社制などの枠組みが関わります。年度により運用が変わるため、最新の要領を確認してください。
採用前に決めておくことの一覧
| 項目 | 決めておく内容 |
|---|---|
| 業務範囲 | 経営者から移す業務を具体名で列挙 |
| 必須要件 | 3つまでに絞る(例:労務実務の経験、Excelでの集計、普通免許) |
| 未経験可の範囲 | 入社後に教える領域と、その指導役 |
| 権限 | 決裁できる金額、人事への関与の有無 |
| 評価 | 何ができたら成果とみなすか(期初に文章化) |
| 現場への説明 | 誰が、いつ、何を伝えるか |
本部人材は、採用の成否が組織の構造に長く残ります。ポジション名から入らず、経営者の手元の業務を棚卸しするところから設計すると、求人票も面接の質問も自然に決まっていきます。
本部機能の立ち上げは、店舗の採用計画と切り離せません。どの業務を誰に持たせ、どの職種を外から採るかの切り分けからご一緒します。支援プランをご覧いただき、無料相談(約30分〜・オンライン)で採用設計をご一緒させてください。