現場が採用に協力してくれない。店舗を巻き込むための説明の順番
候補者の店舗見学をお願いすると「今週は忙しいので来週以降で」と返ってくる。面接同席を頼むと店長が黙り込む。せっかく採用できた新人の指導役を決めようとすると、店舗同士で押し付け合いになる——。採用がうまく進まない会社で、経営側が「現場が非協力的だ」と感じている場面は珍しくありません。
ただ、この状態を「現場のやる気の問題」として扱うと、まず解決しません。現場から見れば、採用は自分の業務ではないのに時間だけ取られる活動です。協力が得られないのは、多くの場合、依頼の前に伝えるべきことが伝わっていないことが原因です。 この記事では、店舗を巻き込むために何をどの順番で説明するかを整理します。
なぜ現場は採用を「自分ごと」にしないのか
現場が採用に距離を置く理由は、だいたい次の3つに分かれます。
1つめは、採用が成功したときに自分たちに何が返るのかが見えていないこと。人が増えれば負担が減ると本部は当然のように思っていますが、現場から見ると「増えた人を自分が教える」という負担だけが先に来ます。
2つめは、依頼の範囲が曖昧なこと。「見学対応をお願いします」という依頼は、現場では「半日つぶれるかもしれない仕事」として受け取られます。終わりが見えない依頼は、忙しい部署ほど断られます。
3つめは、協力したことが評価に一切反映されないこと。指導役を引き受けても業務時間は増えず、シフトも変わらず、人事評価にも出てこない。これでは押し付け合いになるのが自然です。
つまり、現場の負荷そのものより、返るもの・範囲・評価の3点が説明されていないことが問題です。以下、この順番で手当てしていきます。
順番1:人が増えると現場に何が返るかを、数で示す
「人手不足を解消したい」という言い方では、現場は動きません。現場が体感しているのは、抽象的な人手不足ではなく、具体的な不便だからです。採用が1名成功したときに、その店舗の何がどう変わるのかを、現場が普段使っている単位に翻訳して伝えます。
| よくある伝え方 | 現場に届く伝え方(例) |
|---|---|
| 人手不足を解消したい | 常勤1名が入れば、月の時間外を◯時間分減らせる見込み |
| 余裕のある体制にしたい | 有休・希望休が月◯日まで出せるようになる |
| 応援体制を強化したい | 他店への応援シフトが月◯回から◯回に減る |
| 管理薬剤師の負担を減らす | 管理薬剤師が投薬から離れて業務にあたれる日をつくれる |
数字は自社の実績から出します。ここで注意したいのは、出せない数字を作らないことです。「月10時間減ります」と言い切って実現しなければ、次の採用で現場は動かなくなります。「◯時間程度を見込んでいる」「まずは応援シフトの回数から減らしたい」と、見込みであることを明示したほうが信頼されます。
なお、欠員が長引いている店舗では、そもそも「採用を待つ間どう凌ぐか」の話が先に必要になります。この点は薬剤師が採れるまでの間、店舗をどう回すか。欠員時の優先順位で整理しています。
順番2:依頼する範囲を「時間」で切る
現場への依頼は、内容ではなく所要時間で伝えると受け入れられやすくなります。「店舗見学の対応」ではなく「30分、調剤室を見せながら1日の流れを説明する」と切る。誰が、何分、何回やるのかを先に確定させます。
| 依頼する内容 | 所要時間の目安 | 担当 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| 候補者の店舗見学の案内 | 30分程度 | 店長または管理薬剤師 | 依頼が入ったときのみ |
| 面接への同席 | 30〜45分程度 | 配属予定店舗の責任者 | 1候補者につき1回 |
| 現場社員との座談(雑談レベル) | 15〜20分程度 | 年次の近い社員 | 候補者の希望があれば |
| 入社初日の受け入れ説明 | 60分程度 | 指導役 | 入社時1回 |
時間を切ると、現場は「その枠なら空けられる」と判断できます。逆に、時間を切らないまま依頼を重ねると、すべてが「今は無理」に丸められていきます。
見学をどの選考段階に置くか、どの店舗を案内するかといった設計は職場見学・体験勤務を選考に入れる。中途薬剤師のミスマッチを面接前に減らすに、面接同席を頼むときの評価のそろえ方は店長・管理薬剤師が面接官をする会社で、評価がぶれないようにするにまとめています。依頼と同時に「何を見て、何を答えればいいか」の型を渡すと、現場の心理的な負担はかなり下がります。
順番3:指導役に業務時間と評価をつける
新人が来てから指導が押し付け合いになるのは、指導が「善意でやる追加業務」として置かれているからです。ここを制度側で引き取ります。決めるのは次の4点です。
- 指導役を氏名で決める。 「店舗のみんなで見る」は、誰も見ないのと同じ結果になりやすい
- 指導にあてる時間をシフト上に置く。週◯時間を目安に、その分の処方箋対応を他のメンバーに振る
- 指導した内容を記録する簡単な様式を用意する(チェックリスト1枚で足りることが多い)
- 指導役を担ったことを人事評価の項目に入れる。手当を設ける場合は金額と支給条件を先に決める
評価に入れる場合、「新人が辞めなかったか」を指標にするのは避けたほうが無難です。早期離職の理由は指導役だけで決まらないため、責任だけが重くなります。見るのは、決めた項目を期日までに教えたかどうか、面談を実施したかどうかといった行動です。
到達基準の決め方は新卒薬剤師の1年目に何をどこまで。独り立ちの基準を先に決める、入社直後の受け入れ手順は入社3ヶ月で辞められる薬局。最初の90日にやることを決めておくで扱っています。指導役を決める前に、この2つが紙になっているかを確認してください。
順番4:経営者が店舗会議で、自分の口から話す
ここまでの3点を整えても、伝達経路が本部からのメール一斉送信だけだと、現場は「また本部が何か言っている」と受け取ります。採用の目的は、経営者が店舗会議やエリア会議の場で、自分の言葉で話したほうが伝わります。
話す内容は長くなくて構いません。3分程度で、次の順で足ります。
- なぜ今年◯名採るのか(出店、退職、在宅の拡大など、経営上の理由)
- 採れたら現場の何が変わるのか(順番1で整理した具体)
- 現場にお願いしたいこと(順番2で切った時間の範囲)
- 会社として引き取ること(指導役の時間と評価、採用実務は本部が持つこと)
4つめを言わずに1〜3だけを話すと、現場には依頼だけが残ります。会社が何を負担するのかを同じ場で明示することが、協力を引き出すうえで効きます。
そして、採用が決まったら結果を同じ会議で共有します。「◯月に1名入社、応援シフトは◯月から減らす予定」と報告が返る会社では、次の依頼が通りやすくなります。協力の依頼と結果の報告をセットで回すことが、現場を巻き込む仕組みそのものです。
まとめ
現場の非協力は、多くの場合、返るものの不明確さ・依頼範囲の曖昧さ・評価の不在という3つの欠落から生まれます。負荷を減らす前に、説明の順番を整える。それだけで見学の受け入れや面接同席が通りやすくなることは少なくありません。
Talencoでは、採用計画の設計から現場への説明設計、受け入れ・初期定着までを一貫して伴走しています。実務は自社で進めたい場合の伴走コンサルティングと、実務まで任せられるフルサポートの2つのプランがあり、体制や人数に応じてお見積りします。支援プランをご覧いただくか、まずは無料相談(約30分〜・オンライン)で、貴社の店舗をどう巻き込むかの設計をご一緒させてください。