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新卒薬剤師の初任給をどう決めるか。既存社員との関係から考える

新卒薬剤師の募集を出すにあたり、初任給をいくらに設定するか。求人サイトで他社の金額を眺め、「うちは少し低いかもしれない」と感じながらも、既存社員のことを考えると簡単には上げられない。そんな状態で決めきれずにいる経営者や採用責任者の方は少なくありません。

初任給は、一度公表して入社者が出れば、翌年に下げることが実質的にできない数字です。だからこそ「相場がいくらか」を追うより、決め方の手順を持っておいたほうが判断がぶれません。この記事では、金額そのものではなく、どの順番で何を確認して決めるかを整理します。

手順1:自社が本当に競合する求人の範囲を絞る

初任給を検討するとき、多くの会社は求人サイトの新卒募集を横断的に眺めます。ただ、全国展開のドラッグストアと地方一県の調剤薬局が同じ学生を取り合っているとは限りません。比較すべき相手を絞らないと、勝てない土俵の数字に引っ張られます。

絞り込みの軸は、おおむね次の3つです。

軸見るポイント確認方法
地理自社店舗と通勤圏が重なるか勤務地の記載、最寄り駅・市区町村
規模・業態学生が自社と並べて検討しそうか店舗数、調剤中心かOTC併設か
採用したい学校訪問予定の大学に募集を出しているか大学のキャリアセンターにある求人票

この3つが重なる求人を10〜20件ほど集めると、実際に競合する範囲の分布が見えてきます。このとき、金額だけでなく**「その金額に何が含まれているか」を必ず併記して記録してください。**固定残業代が組み込まれているか、住宅手当が別枠か、地域手当があるかで、同じ表示額でも中身は大きく変わります。表示額だけを並べた表には、意味がありません。

なお、どの学校に求人を出すかがまだ固まっていない場合は、先に学校リストの検討から入ったほうが早いことがあります。学校の絞り方は薬科大学・専門学校との接点がない会社が、最初にやることで整理しています。

手順2:既存の若手薬剤師と並べて、逆転をどこまで許容するか決める

次にやるのは、在籍している薬剤師を入社年次順に並べる作業です。新卒の初任給を上げると、2年目・3年目の薬剤師の給与を追い越す、いわゆる逆転が起きます。

ここで大事なのは、逆転を「絶対に避ける」と決めてしまわないことです。避けようとすると初任給は据え置きになり、募集が動かなくなります。逆に無制限に許容すると、既存の若手から不満が出ます。決めるべきは、許容する範囲の線です。

線の引き方として考えやすいのは、次の順です。

  1. 在籍者を入社年次・役割(一般、管理薬剤師候補、管理薬剤師)で一覧にする
  2. 新しい初任給を当てはめたとき、誰が何円追い越されるかを書き出す
  3. 追い越される人のうち、引き上げ対象にする人を決める(多くの場合、2年目・3年目が対象になりやすい)
  4. 引き上げに必要な原資を年間で計算し、実行可能な範囲まで初任給案を戻す

3番を飛ばして初任給だけ上げると、既存社員から見て「新しく来る人だけ優遇された」という形になります。中途採用でも同じ構造の問題が起きるため、考え方は中途薬剤師に高く出すと、既存社員が辞める。給与の内部公平性をどう保つかと合わせて読むと整理しやすくなります。

手順3:基本給ではなく手当で差をつける設計を検討する

初任給を上げる手段は基本給だけではありません。手当は、対象条件を明示できるため、既存社員への説明がつきやすいという利点があります。

手当の種類差をつける根拠設計時に決めること
住宅手当・社宅転居を伴う配属かどうか対象となる通勤距離、既存社員への適用
地域手当勤務地の採用難易度・物価対象店舗の指定、異動時の増減
管理薬剤師手当法令上の責務と店舗運営の負荷就任時期の目安、代理時の扱い
資格・研修関連の支援認定取得などの取り組み費用負担の範囲、勤続との紐付け

手当設計で見落とされやすいのが、既存社員への適用です。新卒にだけ住宅手当をつけると、同じ条件で転居している既存社員から当然指摘が入ります。手当を新設するなら、適用範囲を全社で揃えるか、揃えない理由を説明できる形にしておく必要があります。

奨学金の返済支援を手当の一種として検討する会社も増えていますが、支給か貸与か、勤続年数と紐付けるかを先に決めないと、後から揉める火種になります。この論点は奨学金返済支援を薬学生の採用に使うとき、先に決めておく条件で個別に整理しています。

手順4:初任給ではなく「3年目までの上がり方」で見せる

ここまで検討しても、大手チェーンの提示額に届かないという結論になることは珍しくありません。そのときの選択肢として、初任給の一点勝負をやめるという方法があります。

学生が実際に気にしているのは初任給の額だけではなく、入社後どうなるかです。次のような形で、時間軸を含めた提示に切り替えられないか検討してみてください。

  • 1年目・2年目・3年目の給与水準の目安(モデル給与として明示する)
  • 何年目で何を任されるか(投薬デビュー、一人当番、管理薬剤師候補など)
  • 昇給の判断基準(在籍年数だけでなく、到達している業務範囲を含める)

この提示ができる会社は多くありません。金額を並べるだけでなく、「2年目でここまでできるようになっているから、この水準になる」という結びつきを示せると、初任給の数万円差を埋める説明になることがあります。ただし、書いた水準は約束として扱われます。到達していない社員が出たときにどう扱うかまで決めてから、公表してください。

任される範囲を段階に分ける作業そのものは、新卒薬剤師の1年目に何をどこまで。独り立ちの基準を先に決めるで扱っています。育成の基準がないまま昇給の階段だけ作ると、判断が属人的になりやすくなります。

決めた後に、どこまで開示するか

初任給と3年目までの水準を決めたら、社内にどこまで伝えるかを決めます。全社に開示する必要はありませんが、少なくとも面接に同席する店長・管理薬剤師には、新卒の初任給水準と引き上げ対象の考え方を共有しておいたほうが安全です。知らないまま学生から質問され、その場で違う数字を答えてしまう事故が起きます。

また、モデル給与を募集要項に載せる場合は、固定残業代の有無や手当の内訳まで書き分けてください。表示額だけ大きく見せて、入社後に内訳を知らされた新人が早期に辞めるというのは、よくある形です。

相場を追う前に、自社の構造を先に見る

初任給は、単独では決まらない数字です。競合する求人の範囲、既存の若手との関係、手当の適用範囲、昇給の階段が絡み合っているため、相場だけを見て決めると、どこかで無理が出ます。逆に言えば、この4点を一度整理してしまえば、翌年以降の改定判断は格段に楽になります。

Talencoでは、初任給や給与テーブルの設計を、母集団形成や選考設計と切り離さずに扱っています。「いくらにすべきか」の一般論ではなく、在籍者の構成と競合する求人を見ながら、実行できる範囲で線を引くお手伝いです。支援の進め方は支援プランをご覧ください。

まずは現状の給与構成と採用したい人数をお聞かせいただければ、どこから手をつけるかを一緒に整理できます。無料相談(約30分〜・オンライン)で、採用設計をご一緒します。

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