辞めた薬剤師の退職理由から、採用要件を書き換える
募集をかけて、面接をして、採用する。それなのに1年以内に抜けてしまい、また同じ募集を出している。求人原稿も面接の質問も見直したのに、辞める人の顔ぶれだけが変わって状況は変わらない——こうした状態のとき、原因が募集の出し方ではなく、そもそも「どんな人を、どういう前提で採るか」という採用要件のほうにあることがあります。
採用要件は、多くの場合、最初に決めたきり更新されません。一方で、退職者は毎年出ています。すでに社内にある退職の記録は、要件を書き換えるための一次情報です。この記事では、過去2〜3年の退職者を並べ直してパターンを特定し、それを「採ってはいけない条件」ではなく「入社前に必ず伝える条件」に翻訳するまでの手順を整理します。
まず、退職を「個別の事情」から切り離す
退職理由を振り返るとき、多くの会社は一人ずつ思い出します。「あの人は家庭の事情だった」「あの人は人間関係が合わなかった」。個別に見ると、たしかにどれも本人固有の事情に見えます。
しかし3年分を横に並べると、別の景色が出てくることがあります。同じ店舗ばかりから抜けている。入社から6〜9ヶ月に集中している。前職が大手チェーンだった人だけが続かない。こうした繰り返しは、本人の適性ではなく、採用時点の前提と現場の実態がずれていることを示している場合があります。
一人ずつの理由を掘るのではなく、複数人に共通して現れる条件を探すのがこの作業の目的です。
過去2〜3年の退職者を1枚に並べる
用意するのは表1枚です。人事記録と現場責任者の記憶で埋まる範囲で構いません。完璧を目指すより、8割の精度で早く並べるほうが有効です。
| 項目 | 記入内容の例 |
|---|---|
| 入社日/退職日 | 在籍月数を算出する |
| 雇用区分 | 常勤/パート、新卒/中途 |
| 配属店舗 | 異動があれば異動先も |
| 採用チャネル | 自社応募/紹介会社/リファラル/学校経由 |
| 前職の環境 | 規模、処方科目、1日の処方箋枚数の感覚 |
| 退職の申し出時期 | 何月に切り出されたか |
| 本人が語った理由 | 退職届・面談での言葉をそのまま |
| 現場が見ていた理由 | 上長・同僚の見立て |
本人が語った理由と、現場の見立てを分けて書くのが要点です。退職の申し出では「家庭の事情」「一身上の都合」といった穏当な表現が使われることが多く、それだけを集めても要件の材料になりません。両方を並べると、言葉になっていなかった摩擦が見えてきます。
在籍3ヶ月前後で辞めるケースが目立つ場合は、要件の問題より受け入れ体制の問題であることが多く、入社3ヶ月で辞められる薬局。最初の90日にやることを決めておくで扱った論点が先になります。
繰り返しているパターンを4つの軸で読む
並べ終えたら、次の4軸で見ます。2人以上が同じ枠に入ったら、偶然ではない可能性を疑います。
時期。入社何ヶ月目で辞めているか。3ヶ月以内なら受け入れ、6〜12ヶ月なら「聞いていた話と違う」の顕在化、2〜3年目ならキャリアの頭打ちが背景にあることが多い傾向です。
配属。特定店舗に集中していないか。集中しているなら、その店舗の業務量・処方内容・人間関係のいずれかが、採用時に説明されていない可能性があります。
属性。前職の規模や経験年数に偏りがないか。大手チェーン出身者だけが続かないなら、分業体制の有無や一人あたりの業務範囲が想定と違っている場合があります。
チャネル。紹介会社経由だけ、あるいは自社応募だけに偏っていないか。偏りがある場合、そのチャネルで伝わっている情報量に差がある可能性があります。紹介経由の情報伝達については紹介会社から候補者は来るのに決まらない。原因は企業側にありますも参考になります。
「採ってはいけない条件」にしない
パターンが見えると、「大手出身者は採らない」「子育て中の人は難しい」といった除外条件に短絡しがちです。これは避けたほうがよいと考えています。
理由は二つあります。一つは、母集団が確保しづらい薬剤師採用で除外条件を増やすと、採用そのものが成立しなくなること。もう一つは、除外の根拠が数人のサンプルにすぎず、属性そのものが原因とは限らないことです。大手出身者が続かなかったのは出身が理由ではなく、「一人薬剤師の時間帯があること」を伝えていなかったからかもしれません。
やるべきは、パターンを**「入社前に必ず伝える条件」に翻訳する**ことです。除外ではなく、開示に変える。
退職パターンを開示条件に翻訳する
翻訳の例を挙げます。自社の表と照らして、同じ形で書き換えてみてください。
| 見えたパターン | 除外条件にすると | 開示条件に翻訳すると |
|---|---|---|
| 大手出身者が半年前後で辞める | 大手出身は採らない | 「一人薬剤師の時間帯が週◯回あります」「調剤と監査を同一人が行う時間帯があります」を面接で提示する |
| 特定店舗からの退職が続く | その店舗は採用しない | 処方科目・1日の枚数・在宅の件数・残業の実態を数字で伝え、見学時にその時間帯を見せる |
| 2〜3年目で辞める | 若手は定着しない | 3年後に任せたい役割(管理薬剤師候補、在宅、後輩指導)を入社時に明示する |
| 子育て中の入社者が続かない | 時短は採らない | 急な休みの引き継ぎ手順、土曜出勤の頻度、シフト確定のタイミングを事前に文書化する |
開示条件にすると、二つのことが同時に起きます。合わない人は応募段階または面接段階で自ら離れ、合う人には「事前に説明された職場」という印象が残ります。応募数は減ることがありますが、決まった人の在籍期間は延びやすくなります。
パート枠での時間の切り方や、急な休みの前提の書き方はパート薬剤師が集まる募集条件のつくり方。時間の切り方で応募数が変わるで具体的に扱っています。
書き換えた要件を、どこに反映するか
翻訳した開示条件は、置き場所を決めないと使われません。最低限、次の4か所に落とし込みます。
- 求人原稿の仕事内容欄。曖昧な表現を数字と頻度に置き換える(薬剤師の求人票に応募が来ない。原稿を書き直す順番)
- 紹介会社への依頼書。求める人物像だけでなく、伝えてほしい前提条件を明記する
- 面接の質問リスト。開示条件に対する反応を確認する質問を1つずつ追加する
- 職場見学の時間帯。忙しい時間帯を意図的に見せる設計にする
このうち3と4は、開示が「言っただけ」で終わらないための担保です。伝えたつもりでも、候補者が実感していなければ入社後のギャップは残ります。
更新のサイクルを決めておく
この作業は一度やって終わりではありません。退職者が出るたびに追記し、年に1回、採用計画を立てる前に見直す。この頻度で十分機能することが多いです。
あわせて、退職面談で聞く項目を固定しておくと、翌年の材料の質が上がります。「入社前に聞いておきたかったことは何か」「入社後、想定と一番違ったのはどこか」の2問を全員に聞くだけでも、開示条件の候補が集まります。管理薬剤師など、抜けると運営が止まるポジションについては管理薬剤師の後任を、辞めると言われる前に用意するもあわせてご確認ください。
退職者の記録を並べ直す作業は、社内だけでも始められます。一方で、見えたパターンをどこまで開示条件に落とすか、どこからは職場側を変えるべきかの線引きは、外から見たほうが判断しやすい部分でもあります。
Talencoでは、新卒・中途の両方について、採用要件の設計から募集・選考・入社後の初期定着までを伴走支援しています。実務は貴社が行い設計と実行管理を担う「伴走コンサルティング」と、実務まで一貫して対応する「フルサポート」の2つの形があります。詳しくは支援プランをご覧ください。
まずは無料相談(約30分〜・オンライン)で、直近の退職状況と現在の採用要件を伺いながら、書き換えの手順をご一緒します。