辞めた薬剤師に戻ってきてもらう。出戻り採用を仕組みにする
「あの人がもう一度来てくれたら、一番早いんだけどな」。欠員が出た店舗の話をしていると、過去に辞めた薬剤師の名前が出てくることがあります。ところが実際に連絡を取る会社は多くありません。連絡先が分からない、辞めたときに気まずかった、戻りたいと思っているか分からない——理由はだいたいこの3つに集約されます。
出戻り採用(アルムナイ採用と呼ばれることもあります)は、うまくいけば採用のなかで最も負担の軽いルートです。ただし「たまたま連絡が来た」で終わらせているうちは、採用チャネルとしては数えられません。この記事では、退職の場面から復帰時の処遇までを、あらかじめ決めておく手順として整理します。
元社員は、情報が最も揃っている候補者
中途採用で難しいのは、書類と数回の面談だけで「合うか・続くか」を判断しなければならない点です。元社員にはこの不確実性がほとんどありません。
- 仕事の進め方、監査や在宅対応の実務レベルを会社が知っている
- 人間関係の相性、勤怠の傾向も分かっている
- 本人の側も、レセコンの種類、店舗の忙しさ、通勤経路、休みの取りやすさを知っている
結果として、面接で確認する項目が少なく、入社後の立ち上がりも短くなりやすい。紹介手数料や媒体費もかかりません。1人あたりの採用コストで見たとき、出戻りは最も軽いチャネルになりやすいということです。自社の採用単価をチャネル別に把握していない場合は、薬剤師1人を採るのにいくらかけていいか。採用単価の考え方を先に読んでおくと、このルートを整備する優先度を判断しやすくなります。
声をかけられない原因は「別れ方」と「情報のなさ」
出戻りが起きない会社には、たいてい次のどちらかがあります。
ひとつは別れ方です。退職の申し出に対して引き止めが強すぎた、シフトの穴埋めを最後まで責められた、といった記憶が残ると、本人から連絡することはまずありません。会社側も連絡しづらくなります。
もうひとつは情報のなさです。本人が「戻ってもいい」と思っていても、いま募集しているか、戻れる制度があるかを知る手段がない。辞めた会社の採用ページを毎月見にくる人はいません。
つまり出戻りを増やすためにやることは、口説き文句を考えることではなく、気まずくない別れ方と、戻れるという情報が届く経路をつくることの2点です。
退職面談で決めておくこと
退職が決まった時点が、出戻り採用の入口です。引き止めの場と、送り出しの場を分けて考えます。引き止めの意思表示は一度で十分で、そのうえで本人の決定を受け止めたら、次の3点を伝えます。
- これまでの貢献に対する感謝を、具体的な仕事の場面で伝える
- 事情が変われば戻ってきてもらえること、その際に改めて選考の場を設けること
- 退職後に求人や近況の連絡を送ってよいか、本人に確認すること
3つ目は大事な手続きです。退職後に個人の連絡先へ会社から連絡を取る以上、本人の同意を得ておくべきです。同意の有無、連絡してよい手段(個人メール、SNS、郵送のいずれか)、対象から外してほしい場合の申し出方法を、簡単な書面かメールで残しておきます。
あわせて、退職理由は記録に残します。これは出戻りのためだけでなく、募集条件そのものを見直す材料になります。詳しくは辞めた薬剤師の退職理由から、採用要件を書き換えるで整理しています。
退職後の接点を、年間の運用に落とす
「気が向いたら連絡する」では続きません。頻度と担当を決めて、業務として回します。送りすぎは逆効果になりやすいので、年1〜2回程度から始めるのが扱いやすい形です。
| 時期 | 内容 | 担当 |
|---|---|---|
| 退職後1〜2ヶ月 | 離職票・源泉徴収票などの事務連絡に近況の一言を添える | 管理部門 |
| 年1回(時期を固定) | 会社の近況(新規出店、在宅の拡大、制度変更など)を短く共有 | 採用担当 |
| 募集が出たとき | 該当エリア・該当条件の元社員に個別連絡 | 採用担当 |
| 随時 | 本人から連絡があった場合の受け皿(窓口と初回返信の担当を明示) | 採用担当 |
内容は求人の売り込みではなく、近況報告の体裁にします。「常勤だけでなくパートや週3日の枠もある」「在宅を始めた」など、辞めた当時と変わった点を伝えると、本人の状況次第で検討の余地が生まれます。育児や介護で一度離れた人には、時間の刻み方を示すだけで反応が変わることがあります(パート薬剤師が集まる募集条件のつくり方)。
社員経由で声をかける形も併用できます。制度として設計する場合は、薬剤師の紹介を社員にお願いする。リファラル採用を制度にする手順の考え方をそのまま応用できます。
復帰時の給与・等級を、事前に決めておく
出戻りで最ももめやすいのがここです。打診の場で即興に決めると、本人にも既存社員にも説明できない金額になりがちです。方針は3通りに整理できます。
| 方針 | 決め方 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 在籍時準拠 | 退職時の等級・給与を起点に、昇給分のみ反映 | 離職期間が短い(目安1年以内)、業務がほぼ変わっていない | 外での経験が評価されず、本人が不満を持つ場合がある |
| 外の経験を加味 | 在籍時を下限とし、他社での経験・役割を上乗せ | 病院や他業態で経験を積んで戻る場合 | 既存社員との逆転が起きやすい |
| 新規中途と同基準 | 在籍歴は選考の判断材料にとどめ、処遇は通常の中途基準で決定 | 離職期間が長い、職種や勤務形態が変わる場合 | 「前より下がった」と受け取られないよう説明が要る |
どれを標準にするかと、離職期間の目安(何年以上空いたら在籍時準拠を使わないか)を先に決めておきます。勤続年数や有給付与のカウントを通算するかどうかも、就業規則との整合を含めて事前に確認してください。条件の伝え方そのものは薬剤師への条件提示で失敗しない。オファー面談で決めておくことと同じ考え方で進められます。
既存社員への説明を先に用意する
出戻りがうまくいかないもうひとつの原因が、受け入れる側の感情です。「辞めた人がいい条件で戻ってきた」と見えると、残って支えてきた社員の納得感が損なわれます。
説明の材料は次の3つです。
- 復帰は通常の選考を経ていること(面談を省略しない)
- 処遇の決め方には社内共通の基準があること(個別の特別扱いではない)
- 復帰後に担う役割が何か(欠員の穴埋めか、新店か、指導役か)
決定の経緯すべてを開示する必要はありませんが、「基準に沿って決めた」と言える状態にしておくことが要です。また、離職期間が空いた人ほど、システムや制度の変更に戸惑います。元社員だからと立ち上がり支援を省かず、入社3ヶ月で辞められる薬局。最初の90日にやることを決めておくで挙げた受け入れ設計は同じように適用してください。
戻さない判断も、基準として持っておく
すべての元社員が対象になるわけではありません。勤怠や法令遵守に問題があった、患者対応で重大なトラブルがあった、といったケースは対象外とする線引きを社内で決めておきます。基準がないまま個別に判断すると、断る場面で角が立ちます。逆に、退職理由が「通勤」「勤務時間」「家庭の事情」など環境要因だった人は、条件が変われば戻る可能性が残っている層です。
採用チャネルの一つとして位置づける
出戻りは母集団の全体を賄うルートではありません。タイミングが合ったときに効く枠として、求人媒体・紹介会社・自社応募と並べて数えるものです。人材紹介は席を埋めるチャネルとして引き続き有効ですし、その歩留まりを上げることと、出戻りの経路を整えることは両立します。
退職面談の進め方、連絡の同意の取り方、復帰時の処遇基準、既存社員への説明——どれも一度決めてしまえば運用に乗ります。決める順番と、自社の等級・給与との整合をどう取るかは、状況によって変わります。
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