薬剤師1人を採るのにいくらかけていいか。採用単価の考え方
人材紹介の請求書を見て「1人にこの金額は高い」と感じたことがある。けれど、では何円までなら妥当なのかと聞かれると答えられない。薬局やドラッグストアの経営者・採用責任者から、この形の相談をよく受けます。
「高い」という感覚そのものは間違っていません。問題は、比べる相手が置かれていないことです。採用費は請求書として目に見えますが、欠員が続いているあいだの損失は請求書になりません。見える費用と見えない費用を同じ単位に並べない限り、いくらまでかけていいかは決まらないままです。この記事では、自社の数字で計算できる項目立てだけを示します。金額の相場は会社の規模・地域・チャネルで大きく変わるため、あえて数値は入れません。
まず「1人あたりいくらかかったか」を1つの数字にする
採用単価は、ある期間にかかった採用関連費用の合計を、その期間に入社した人数で割った数字です。単純ですが、実際に出そうとすると「どこまで費用に含めるか」で詰まります。
含める範囲は、後から比較できるようにルールを固定しておくことが大切です。おすすめは、外部に支払った金額(外部費用)と、自社の人が使った時間(内部工数)を分けて出す方法です。
| 区分 | 拾う費目 | 拾う場所 |
|---|---|---|
| 外部費用 | 人材紹介手数料、求人媒体掲載料、スカウト送信オプション、合同説明会出展料、求人票・写真の制作費、採用サイト運用費 | 会計データ/請求書 |
| 外部費用(間接) | 会場費、交通費・宿泊費の負担分、内定者向けイベント費 | 経費精算 |
| 内部工数 | 面接・説明会の対応時間、日程調整、書類確認、社内会議 | 担当者の概算時間×人件費単価 |
| 準備費用 | 求人票の作り直し、面接設計の見直しにかけた時間 | 同上 |
内部工数は正確に出そうとすると止まってしまうので、「面接1回あたり何分×何人」程度の概算で構いません。重要なのは精度よりも、毎年同じ定義で出し続けることです。定義がぶれると、去年より高いのか安いのかが判断できなくなります。
そのうえで、チャネルごとに分けて出すと使える数字になります。紹介経由で入った人数と紹介手数料、自社応募で入った人数とそのために使った費用。合算だけだと、どこを増やしどこを削るかの判断ができません。
欠員が続くコストを、同じ単位に置き換える
採用単価の「高い・安い」は、採らなかった場合に発生する損失と比べて初めて判断できます。ここも自社の数字で出せる項目に分解します。
| 項目 | 計算のしかた | 確認先 |
|---|---|---|
| 応需の制限 | 開局時間の短縮・在庫や無菌調剤など特定業務の停止によって落ちた処方箋枚数×平均技術料 | レセコン、店舗日報 |
| 残業代の増加 | 欠員前後の月間残業時間の差×該当者の割増単価 | 勤怠データ |
| 応援・移動の負担 | 他店からの応援に伴う人件費・交通費、応援元店舗の生産性低下 | シフト表 |
| 派遣・スポットの利用 | 派遣薬剤師やスポット勤務の単価×稼働時間 | 請求書 |
| 管理薬剤師の負荷 | 管理業務に割けなくなった時間、監査・在庫管理の遅れによる差損 | ヒアリング |
| 連鎖退職のリスク | 金額化は難しいため、発生確率として別枠で認識する | — |
このうち、応需の制限と残業代・派遣費用は比較的はっきり金額が出ます。まずはこの3つだけでも月額に直してみてください。「欠員1ヶ月あたり◯◯円」という数字が出れば、紹介手数料が何ヶ月分の欠員に相当するかが計算できます。
管理薬剤師のポジションが空く場合は、店舗運営そのものが止まるため損失の桁が変わります。後任がいない状態をどう解消するかは管理薬剤師の後任を、辞めると言われる前に用意するで別途整理しています。
許容できる単価は「回収期間」で決める
欠員1ヶ月あたりの損失が出たら、次は上限の決め方です。実務的には、次の2つの見方を併用することが多いです。
ひとつは、欠員損失の何ヶ月分までなら払うかという見方です。欠員1ヶ月の損失が採用費の何分の1かを計算し、「何ヶ月で回収できるか」を出します。空席が3ヶ月続く見込みで、採用費が欠員2ヶ月分に相当するなら、支払う判断はしやすくなります。逆に、その職種が空いていても店舗が回っているなら、急いで高い単価を払う理由は薄いことになります。
もうひとつは、想定される在籍期間から見る方法です。同じ採用費でも、1年で辞める人と5年在籍する人では意味がまったく違います。過去の平均在籍年数がわかるなら、採用費を在籍月数で割った「月あたりの採用費」を出すと比較しやすくなります。ここまで来ると、採用単価を下げる話と定着の話が同じ土俵に乗ります。
なお、新卒と中途では回収の時間軸が違います。新卒は入社まで1年近く空き、一人前になるまでの育成期間も必要ですが、その後の在籍期間は長くなる傾向があります。中途は即戦力として早く回収が始まる一方、次の転職も起こりやすい。同じ物差しで比べず、職種・雇用区分ごとに許容単価を分けて持つほうが実態に合います。新卒側の時間軸については薬学生の新卒採用スケジュール。6年制の学事と採用活動の重ね方を参照してください。
単価を下げる前に、歩留まりを確認する
数字が出ると、多くの会社は「紹介を減らそう」という結論に向かいます。ただ、その前に確認したい点があります。紹介経由の単価が高く見える原因が、手数料そのものではなく決定率にある場合が少なくないからです。
10人紹介を受けて1人決まる会社と、3人で1人決まる会社では、同じ手数料でも1人あたりにかかった時間と機会損失が違います。面談で止まる、内定を出しても辞退される、といった状態が続いているなら、まず社内の選考設計を見直すほうが早く効きます。この点は紹介会社から候補者は来るのに決まらない。原因は企業側にありますで詳しく整理しました。
人材紹介は、席を早く埋めるチャネルとして有効です。悪者にする必要はありません。問題は、他のチャネルを育てないまま紹介だけに依存し、単価をコントロールできなくなることです。
数字が出たあとに決める3つのこと
計算が終わったら、感覚に戻らないよう次の3点を文書にしておきます。
- 職種・雇用区分ごとの許容採用単価の上限(例:常勤薬剤師、パート、登録販売者で分ける)
- 上限を超える見積りが来たときの判断者と判断基準(欠員損失が上回るかどうか)
- 半年ごとにチャネル別単価を出し直すタイミングと担当者
この3つが決まっていれば、次に請求書を見たときの議論が「高い・安い」から「この店舗の欠員損失に見合うか」に変わります。
採用単価は、下げること自体が目的ではありません。欠員による損失と比べて妥当な水準に収め、その水準を維持できる採用の型をつくることが目的です。自社の数字をどう並べればいいか迷う段階でしたら、無料相談(約30分〜・オンライン)で、計算に必要な項目の洗い出しから採用設計までご一緒します。支援の進め方は支援プランをご覧ください。