子どもの急な発熱でシフトが崩れる。子育て中の薬剤師を戦力にする体制
朝8時半、店長のスマホが鳴る。「すみません、子どもが熱を出してしまって」。今日は処方が多い曜日で、他に薬剤師はいない。結局、店長が自分の休日を潰して入る。同じことが月に何度か起きるうちに、現場から「もう子育て中の人は採らないでほしい」という声が出はじめる——。
この状態は、採用した人の問題ではなく、急な休みが出たときの回し方を会社が決めていないことによって起きています。子育て中の薬剤師は、資格を持ち実務経験もあるのに常勤の枠に収まりづらいため、中小にとっては競合が少ない採用ターゲットです。応募を集めることと、現場が疲弊しないことを同時に成立させるには、募集の前に「休みが出たときどうするか」を先に決めておく必要があります。
「子育て中の方歓迎」と書くだけでは、応募も定着も動きにくい
求人票の歓迎欄に「子育て中の方歓迎」「ブランクOK」と並べている薬局は多いのですが、応募を検討する側はその一文をほとんど信用していません。前職でも同じことが書かれていて、実際には急な休みのたびに気まずい思いをした経験を持つ人が少なくないからです。
候補者が知りたいのは姿勢ではなく運用です。子どもが発熱したとき誰に連絡すればいいのか、その日の調剤は誰が回すのか、休んだ分は欠勤控除なのか有給なのか、繰り返したときに何を言われるのか。ここが書かれていない募集は、条件が同等の他店と比べられたときに選ばれにくくなります。
同時に、現場側も「歓迎」だけでは動けません。受け入れる体制を決めずに採用すると、しわ寄せは特定の一人(多くは管理薬剤師や店長)に集中します。 子育て層の採用は、募集文を書き換える話ではなく、シフトの設計を変える話として着手したほうが失敗が少なくなります。
当日欠勤を「例外」から「想定内」に置き直す
小さな子どもがいる家庭で、年に数回から十数回の急な休みが発生することは珍しくありません。これを例外事象として扱うと、起きるたびに店長の個人的な調整で処理されます。想定内の事象として扱えば、事前にルールを置けます。
誰が埋めるかを先に決める
埋め方には複数の選択肢があり、それぞれ負担の出方が違います。1つに頼らず、優先順位をつけて並べておくことが実務的です。
| 埋め方 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 同一店舗内の余剰人員で吸収 | 常勤が2名以上いる、処方が読める曜日 | 1名体制の店舗では成立しない |
| 近隣店舗からの応援 | 30分圏内に複数店舗がある | 応援元も薄くなる。移動時間の扱いを決める |
| パート薬剤師の当日スポット出勤 | 商圏内に複数名を確保できている | 受けてもらえる前提で組むと崩れる。手当が必要 |
| 応需時間の一時短縮・処方受付の調整 | 他に手がない緊急時 | 患者影響が出る。判断者を決めておく |
| 派遣・紹介での一時補充 | 欠員が長期化する場合 | 当日対応には間に合わない |
当日対応で現実的に効くのは、上の2つと「パートのスポット出勤」です。ここを機能させるには、そもそも複数名のパート薬剤師が在籍している状態をつくっておく必要があります。時間の刻み方で応募数が変わる点はパート薬剤師が集まる募集条件のつくり方。時間の切り方で応募数が変わるで整理しています。長期の欠員とは判断軸が違うため、数ヶ月単位の穴の埋め方は薬剤師が採れるまでの間、店舗をどう回すか。欠員時の優先順位を参照してください。
当日連絡のルールを決める
連絡のルールが曖昧だと、休む側は「誰に、何時までに、どう言えばいいのか」で毎回消耗します。次の4点を紙に落として、入社時に渡しておくと双方が楽になります。
- 連絡先:店長個人の携帯か、店舗の代表番号か、グループチャットか。不在時の第二連絡先も決める
- 時間:開店何分前までに連絡するか。深夜・早朝の連絡手段はどうするか
- 内容:休みか遅刻か、復帰見込みの目安(分かる範囲で)
- その後:代替の手配は誰がするか。本人が同僚に直接お願いするのか、店長が引き取るのか
特に4点目を決めていない薬局が多く見られます。本人が自分で代わりを探す運用にすると、人間関係の負債が積み上がり、数ヶ月で「休めない職場」に戻ります。 手配は会社側の仕事として引き取ったほうが続きやすいです。
代わりに出た人への手当を用意する
当日に呼ばれて出勤した人に何も返らない状態が続けば、次から受けてもらえなくなります。金額の多寡より、仕組みとして用意されていることが重要です。
考え方の選択肢としては、当日呼び出し手当を1回あたり定額で設定する、代休を優先的に付与する、応援で他店へ移動した場合の移動時間を勤務時間に含める、といった形があります。金額の相場は地域や雇用形態で幅があるため、自社の時給単価と呼び出し頻度の見込みから逆算して決めてください。
あわせて、休んだ本人の扱いも決めます。有給を時間単位で使えるようにしているか、子の看護のための休暇制度をどう運用するか。制度の詳細は法改正で変わることがあるため、最新の要領を確認のうえ、自社での運用ルールを文書化しておくと運用がぶれにくくなります。
保育費補助・病児保育は「出すか」より「どう出すか」
保育に関する支援を検討する会社は増えていますが、金額を決める前に整理しておきたい論点があります。
- 対象範囲:常勤のみか、パートも対象にするか。子の年齢の上限をどこに置くか
- 支給方法:実費補助か定額手当か。手当にすると課税や社会保険の扱いが変わるため、社内の給与計算担当や社会保険労務士に確認する
- 病児保育の扱い:自治体の病児保育や民間シッターの利用料を補助するか、上限回数を設けるか
- 既存社員への説明:子どもがいない社員から見て不公平に見えない理由を用意する
4点目は軽視されがちですが、制度を入れた直後に別の社員が不満を持つケースがあります。「急な休みが出ても店が回る体制への投資であり、その恩恵は全員が受ける」という説明を先に用意しておくと、導入がスムーズになります。
なお、ブランクを経て復職する人と、在職しながら子育てをしている人では、不安の中身が違います。復職側の設計はブランクのある薬剤師を採用する。受け入れ側が決めておくことに、自社の社員が育休から戻ってくる場面は産休・育休に入る薬剤師が出たとき、代替と復帰をどう組むかにまとめています。
募集文には制度名ではなく「回し方」を書く
ここまで決めたことを、そのまま募集文と面接の説明に反映させます。抽象的な歓迎表現を、運用の記述に置き換えるだけで、読んだ人の反応が変わりやすくなります。
| よくある書き方 | 置き換えの方向 |
|---|---|
| 子育て中の方歓迎 | お子さんの急な発熱などで当日お休みが必要になった場合、代替の手配は店長が行います(ご自身で代わりを探す必要はありません) |
| ブランクOK・アットホームな職場 | 復帰後1〜2ヶ月は先輩薬剤師と2名体制のシフトを組み、監査を分担します |
| 残業ほぼなし | 16時半までの勤務が可能です。閉店業務は常勤が担当します |
| 家庭と両立しやすい環境 | 有給は時間単位で取得可。学校行事による希望休は前月◯日までの申請で調整します |
| 福利厚生充実 | 病児保育の利用料を1回あたり上限◯円まで補助します(対象:小学校就学前のお子さん) |
右側の書き方は、決めていなければ書けません。逆に言えば、書けない項目は運用が決まっていないということです。求人原稿そのものの書き直し手順は薬剤師の求人票に応募が来ない。原稿を書き直す順番を参照してください。
面接では、こちらから先に「急な休みは起きる前提で組んでいます」と伝えます。候補者側から聞き出しにくい話題を企業側が開示すると、そこで信頼が生まれやすくなります。そのうえで、想定される休みの頻度、預け先の状況、配偶者や祖父母が対応できる日があるかを確認しておくと、シフト設計の精度が上がります。聞き方は本人の家庭事情への配慮が必要な領域なので、「シフトを組むために伺います」と目的を添えて質問する形が無難です。
決める順番
一度に全部は整えられません。次の順で着手すると、現場の負荷が先に下がります。
- 当日連絡のルール(連絡先・時間・代替手配の担い手)を紙1枚にする
- 埋め方の優先順位を店舗ごとに決める(1名体制の店舗は特別扱いが必要)
- 代替出勤者への手当を決める
- パート薬剤師を複数名確保し、スポット対応の可否を事前に聞いておく
- 保育費・病児保育の補助を検討する
- 決まったことを募集文と面接の説明に反映する
1〜3は費用がほとんどかからず、決めるだけで効きます。5から手をつけたくなりますが、順番を逆にすると「制度はあるのに休めない」状態になりがちです。
子育て層の採用は、母集団の広げ方と受け入れ体制の設計がセットになる領域です。自社の店舗人員で当日欠勤をどこまで吸収できるのか、パートを何名確保すれば成立するのかは、店舗数・処方量・商圏によって答えが変わります。
Talencoでは、ターゲット設定から募集の設計、選考、入社後の初期定着までを伴走で支援しています。実務は自社で持ちたい場合の伴走コンサルティングと、実務まで一貫して任せられるフルサポートの支援プランがあり、体制や採用人数に応じてお見積りします。まずは無料相談(約30分〜・オンライン)で、現在のシフト状況と採用計画をお聞かせください。採用設計をご一緒します。