実務実習を受け入れたいが体制がない。まず何を整えるか
「実務実習を受け入れれば薬学生と接点ができる」という話は聞いたことがある。ただ、自社には指導できる資格を持った薬剤師がいないし、そもそも通常業務で手一杯の店舗に学生を置く余裕があるのか分からない。そう考えて、検討を始める前で止まっている薬局は少なくありません。
実習受け入れが採用にどうつながるかは薬局の実務実習受け入れは、新卒採用にどうつながるかで整理しました。この記事はその手前、「受け入れられる状態をどうつくるか」に絞ります。人の要件、外部との手続き、店舗の負荷、複数店舗での分担という順で、枠組みだけを押さえておきます。なお、要件や日程の細部は年度によって変わるため、実際に動く際は最新の公表資料を確認してください。
受け入れに必要なものを3つに分ける
実習受け入れの準備は、性質の違う3つの要素に分かれます。混ぜて考えると「大変そう」で止まりやすいため、分けて把握するところから始めます。
| 要素 | 内容 | 用意にかかる時間の性質 |
|---|---|---|
| 人 | 認定実務実習指導薬剤師の資格を持つ薬剤師 | 最も時間がかかる。年単位で見る |
| 手続き | 地区の調整機構・大学への登録、受け入れ可能時期の申告 | 年度ごとの締め切りに合わせる |
| 店舗 | 学生の居場所、指導時間、既存スタッフの負荷調整 | 社内で決められる。着手は早くできる |
このうち自社の意思だけで進められるのは「店舗」だけです。人と手続きは外部の日程に従うことになるため、思い立った年度にすぐ受け入れられるケースは多くありません。 逆算して2年程度の助走を見込んでおくと、計画が現実的になります。
認定実務実習指導薬剤師をどう用意するか
薬学生の実務実習では、指導にあたる薬剤師に一定の要件が求められます。一般には、薬剤師としての実務経験年数を満たしたうえで、所定のワークショップ(研修会)を受講し、認定を受けるという流れです。認定には有効期間があり、更新のための研修も必要になります。
ここで押さえておきたい点が3つあります。
第一に、ワークショップは開催回数も定員も限られます。都道府県の薬剤師会や研修実施団体が主催する形が一般的で、申し込み時期を逃すと次の機会が半年以上先になることがあります。年間の開催予定を早めに確認しておく必要があります。
第二に、受講は1〜2日にわたる場合が多く、店舗を空ける調整が必要です。指導薬剤師の養成は「誰かが空き時間に取ってくる資格」ではなく、シフトと売上に影響する会社の投資として扱ったほうが進みます。
第三に、1人だけ認定を取っても体制としては脆いことです。その薬剤師が異動・退職・産休に入れば受け入れが止まります。将来的に複数名が認定を持つ状態を目標に置き、初年度は1名、翌年もう1名という段取りで考えるほうが現実的です。
要件の詳細(必要な実務経験年数、認定の有効期間、更新条件など)は制度の見直しがありうる領域です。日本薬剤師研修センターや各都道府県薬剤師会の最新の案内を、着手前に必ず確認してください。
調整機構と大学への入口
実務実習の受け入れ先の割り振りは、各地区に置かれた薬学実務実習の調整機構が、大学と実習施設の間に入って行う仕組みになっています。企業が個別の大学に「うちで受け入れます」と言えば決まる、という形ではありません。
実務上の入口は次のようになります。
- 地区の調整機構への登録:受け入れ可能な店舗、指導薬剤師の在籍状況、受け入れ可能な期(時期区分)などを申告します。募集・受付の時期は年度ごとに決まっているため、その年度の実施要領で確認します
- 都道府県薬剤師会からの案内:地域によっては薬剤師会が窓口的な役割を担い、説明会や事前研修の案内が回ってきます。会員でない場合は、まず問い合わせ先を確認するところから
- 大学との関係:割り振りは調整機構を介しますが、実習前後の打ち合わせや訪問指導では大学教員とのやり取りが発生します。すでに接点のある大学があれば、手続きの理解も早くなります
大学とのつながりがまったくない状態から始める場合は、実習とは別の線で関係をつくっておくと動きやすくなります。その進め方は薬科大学・専門学校との接点がない会社が、最初にやることにまとめています。
実習期間中、店舗がどれだけ負うのかを見積もる
「受け入れられるか」の判断で最も曖昧になりやすいのが、店舗側の負荷です。実習は数ヶ月にわたる期間、ほぼ毎日学生が店舗にいる状態になります。日数の枠組み自体は年度の要領で確認するとして、負荷を見積もる項目は先に洗い出せます。
| 項目 | 具体的に発生すること | 見積もりの考え方 |
|---|---|---|
| 日々の指導 | 業務の説明、同行、質疑への対応 | 実習初期ほど大きく、後半は軽くなる |
| 記録・評価 | 実習記録の確認、評価入力、進捗管理 | 週単位でまとまった時間を確保する |
| 大学対応 | 訪問指導の受け入れ、事前事後の打ち合わせ | 期間中に数回。日程は先方都合 |
| 場所と備品 | 学生の作業スペース、白衣・ロッカー、資料 | 事前に用意すれば期間中の負荷は小さい |
| 想定外対応 | 体調不良、遅刻欠席、トラブル時の連絡 | 連絡ルートを事前に決めておく |
この見積もりは、指導薬剤師1人の頭の中に置かず、店舗のシフト表に時間として書き込んでおくことをおすすめします。「空いた時間に見る」という前提では、繁忙日に指導が飛び、学生が放置される時間が生まれます。
現場が「また仕事が増える」と受け止めると、受け入れ自体が続きません。会社として何を負担し、指導役に何を返すのかを先に決めておく考え方は現場が採用に協力してくれない。店舗を巻き込むための説明の順番が参考になります。
複数店舗で分担するという考え方
1店舗で完結させようとすると、指導薬剤師が在籍する特定の店舗に負荷が集中します。店舗数が複数ある会社なら、分担の形を検討する余地があります。
考えられる分け方は次のとおりです。
- 主担当店舗を決め、一部の日を他店で過ごす:在宅訪問や無菌調製など、特定の店舗でしか経験できない業務がある場合に有効です。ただし移動や受け入れ調整の手間は増えます
- 年度ごとに受け入れ店舗を回す:毎年同じ店舗が負担する状態を避けられます。指導薬剤師を複数店舗に配置する動機にもなります
- 本部が事務作業を引き取る:調整機構への登録、大学との日程調整、書類管理を本部側でまとめ、店舗は指導に専念する形です
どの形を取るにしても、他店で実習日を設ける場合は制度上の扱いを確認する必要があります。実習施設としての登録範囲や、認定指導薬剤師の関与の仕方について、地区の要領に沿っているかを事前に確かめてください。
着手の順番
最後に、検討開始から受け入れまでの順番を整理します。
- 自社に認定実務実習指導薬剤師がいるか、いなければ誰を候補にするかを決める
- ワークショップの年間開催予定と申し込み時期を調べ、受講計画を立てる
- 地区の調整機構・都道府県薬剤師会に受け入れ登録の手続きと締め切りを問い合わせる
- 受け入れ候補店舗を決め、指導時間をシフトに組み込んだ試算をつくる
- 受け入れ後、実習生との関わりを採用の年間計画にどう重ねるかを決める
5番目を最初から視野に入れておくと、実習が単発の社会貢献で終わりません。薬学部の学事と採用活動をどう重ねるかは薬学生の新卒採用スケジュール。6年制の学事と採用活動の重ね方で扱っています。
実習受け入れは、教育を主目的に置いた取り組みです。そのうえで、指導薬剤師の養成、店舗の負荷設計、学校との関係づくりは、新卒採用の土台とそのまま重なります。どこから手をつけるか、自社の店舗数と人員で何年計画にするかは、状況によって答えが変わります。
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