薬剤師の採用要件を3つに絞る。「経験者希望」で止まっている会社へ
求人票を作るとき、社内で出てきた希望をそのまま並べていないでしょうか。「調剤経験3年以上」「在宅の経験があれば」「将来は管理薬剤師をお願いしたい」「通勤圏内に住んでいる人」。一つずつは無理のない希望です。ところが並べた瞬間に、その全部を満たす人は市場にほとんど残らなくなります。薬剤師は資格保有者の総数が限られており、条件を掛け算していくと母集団がゼロに近づく構造になっています。
この記事では、要件を減らすのではなく「並べ替える」手順を扱います。必須(must)・歓迎(want)・不問の三つに分け、必須は3つまでという制約をかける。そして外した要件は捨てるのではなく、求人票の別の欄に書き換えて残す。ここまでをセットで行うと、募集の対象は広がり、伝える内容は具体的になります。
要件が多いほど、候補者は減る
採用要件は、社内の希望を集めると増える方向にしか動きません。店長は即戦力が欲しい、本部は将来の管理薬剤師候補が欲しい、経理は給与レンジを抑えたい。それぞれが正当な立場から条件を足していきます。
問題は、条件が「かつ」でつながることです。経験3年以上かつ在宅経験ありかつ管理薬剤師候補かつ通勤30分圏内。この四つを同時に満たす人は、そもそも現職で重用されていて転職市場に出てきにくい層でもあります。紹介会社に依頼しても「該当者がいません」という返答が続く場合、依頼先の問題より要件の掛け算が効いていることが多いです。紹介の量と精度を上げる伝え方については人材紹介会社に薬剤師の求人を出すとき、最初に何を伝えるかでも触れています。
もう一つの副作用は、要件が多いと自社応募も減ることです。求人票に条件がずらりと並んでいると、読んだ薬剤師は「自分は当てはまらない」と判断して離脱します。要件は足切りの道具ですが、足切りは応募が集まってからでも間に合います。
必須・歓迎・不問に三分する
手順はシンプルです。社内で出た要件をすべて紙に書き出し、次の三つに振り分けます。
| 区分 | 定義 | 扱い |
|---|---|---|
| 必須(must) | 満たしていないと業務が成立しない、または入社後に教えられない | 3つまで。求人票の「応募資格」に書く |
| 歓迎(want) | あると立ち上がりが早いが、なくても運用できる | 「歓迎条件」に分けて書く。選考の加点材料 |
| 不問 | 入社後に教えられる、または本人の希望次第で変わる | 応募資格から外し、別の欄へ書き換える |
振り分けの基準は「入社後に教えられるか」です。 教えられることは必須から外します。薬剤師免許は教えられないので必須。在宅訪問の経験は同行と手順書で教えられるので、多くの場合は歓迎か不問に落ちます。無菌調製のように設備と時間を要するものは、自社で教える体制があるかどうかで判断が分かれます。
必須を3つまでにするのは、絞る作業を強制するためです。4つ目を入れたいときは、既にある3つのどれかを歓迎に落とす。この交換を社内で議論すると、「本当に困るのはどれか」がはっきりします。
三分した後の見え方
調剤薬局の常勤薬剤師を1名採る場合を例に、振り分け前後を並べます。
| 当初の要件 | 三分後 | 判断の理由 |
|---|---|---|
| 薬剤師免許 | 必須 | 教えられない |
| 調剤経験3年以上 | 歓迎 | 1年程度でも、鑑査の二重化と同行期間があれば運用できる場合がある |
| 在宅訪問の経験 | 不問 | 同行とマニュアルで教えられる |
| 管理薬剤師の経験 | 歓迎 | 後任育成の計画があるなら未経験でも可 |
| 普通自動車運転免許 | 必須 | 在宅同行が業務に含まれ、代替手段がない場合 |
| 通勤30分圏内 | 不問 | 住居の条件は本人の判断。伝えるべきは店舗と通勤の実態 |
| 電子薬歴の操作経験 | 不問 | 入社後の研修で対応できる |
必須は「薬剤師免許」「運転免許」の二つに落ちました。ここまで絞ると、応募できる人の範囲は大きく変わります。もちろん、経験が浅い人が入る前提になるので、受け入れ側の負荷は上がります。必須を絞る判断は、育てる体制を用意する判断とセットです。 入社直後の設計は入社3ヶ月で辞められる薬局。最初の90日にやることを決めておくを参照してください。
なお、要件の見直しは「誰を採りたいか」からだけでなく「誰が辞めたか」からも組み立てられます。過去の退職者から要件を書き換える手順は辞めた薬剤師の退職理由から、採用要件を書き換えるにまとめています。
外した要件は「入社後に身につくこと」に書き換える
不問に落とした要件を、そのまま消してしまうのは損です。それらは本来「この仕事で何が身につくか」を示す材料だからです。応募資格の欄から、仕事内容や育成の欄へ移し替えます。
書き換えの例を挙げます。
- 「在宅訪問の経験がある方」→「在宅訪問は入社後に先輩の同行から始めます。単独訪問に移る時期は本人の習熟に合わせて決めています」
- 「管理薬剤師経験者」→「将来的に管理薬剤師を目指す方には、法令上の責務、店舗の数値管理、スタッフの育成を段階的にお任せします。時期はご本人と相談して決めます」
- 「電子薬歴の操作経験がある方」→「使用している薬歴システムは○○です。操作は入社初週の研修で習得していただきます」
- 「調剤経験3年以上」→「調剤経験1年以上を想定していますが、監査は常時2名体制のため、ブランクや経験の浅さをご相談いただける環境です」
同じ情報でも、応募資格に置けば「壁」になり、仕事内容に置けば「訴求」になります。書き換えのときは、自社が実際にやっていることだけを書いてください。同行期間を書いたのに現場で同行がつかない、といった食い違いは早期離職の原因になります。原稿全体を直す順番は薬剤師の求人票に応募が来ない。原稿を書き直す順番で扱っています。
絞った要件を選考でどう使うか
必須を3つに絞ると、面接の役割が変わります。資格と最低条件だけで通すので、面接は「できるか」ではなく「合うか・続くか」を確認する場になります。歓迎条件は落とす理由ではなく、配属や立ち上がり計画を決めるための情報として使います。
面接官が複数いる場合は、必須・歓迎・不問の三分を事前に共有しておくと判断がぶれにくくなります。「経験が浅いから見送り」という判断が現場で勝手に出てしまうと、絞った意味がなくなります。要件を変えたときは、求人票と同時に面接官への共有も更新してください。
まとめ
- 要件は「かつ」でつながるため、増やすほど該当者は減る
- 必須・歓迎・不問に三分し、必須は3つまでに制約をかける
- 振り分けの基準は「入社後に教えられるか」。教えられることは必須から外す
- 外した要件は消さず、「入社後に身につくこと」として仕事内容の欄に書き換える
- 必須を絞る判断は、受け入れと育成の体制を用意する判断とセットで行う
要件を絞る作業は、社内の希望を否定することではありません。どこまでを自社で引き受け、どこからを採用で埋めるかの線引きを決める作業です。線引きが決まると、求人票も面接も紹介会社への依頼も、同じ基準で揃っていきます。
自社の要件をどう三分すればよいか、絞った後の受け入れ体制をどう組むかは、店舗数や現在の人員構成によって変わります。Talencoでは設計から実行管理まで伴走する形と、実務まで一貫してお引き受けする形の支援プランをご用意しています。まずは無料相談(約30分〜・オンライン)で、現状の要件と募集状況を伺いながら採用設計をご一緒します。