地方・郊外店舗の薬剤師採用。商圏の外から呼ぶか、中で探すか
求人票を出しても、紹介会社に依頼しても、そもそも応募が数件しか来ない。原稿を書き直しても、条件を少し上げても、動きが変わらない。地方や郊外に店舗を持つ薬局・ドラッグストアで、この状態が何ヶ月も続いているケースは珍しくありません。
このとき起きているのは「募集の見せ方が悪い」ではなく、通勤圏内にいる転職可能な薬剤師の数が、そもそも足りていないという状態であることがあります。原稿や媒体の改善で解ける問題と、母数そのものを取りに行かないと解けない問題は、対処が違います。この記事では、商圏の中で探すのか、商圏の外から呼ぶのか、その判断軸を整理します。
まず「原稿の問題」か「母数の問題」かを切り分ける
同じ「応募が来ない」でも、原因は二つに分かれます。切り分けをしないまま採用手法を増やしても、費用だけが積み上がります。
判断のために見るのは、次の3点です。
- 同じ商圏の他社求人に応募が集まっているか。競合の求人が長期間掲載されたままなら、商圏全体で人が動いていない可能性が高くなります。
- 自社の求人が閲覧されているか、閲覧はされるが応募がないか。閲覧数が極端に少なければ露出の問題、閲覧はあるのに応募がなければ原稿や条件の問題であることが多いです。
- 紹介会社からの紹介件数。「紹介そのものが来ない」なら母数、「来るが決まらない」なら選考設計の問題です。後者については紹介会社から候補者は来るのに決まらない。原因は企業側にありますで整理しています。
閲覧も紹介も少なく、競合も動いていない。この重なりが見えたら、原稿を直すフェーズではなく、母集団の取り方そのものを変えるフェーズです。原稿側にまだ改善余地がありそうなら、先に薬剤師の求人票に応募が来ない。原稿を書き直す順番を確認してください。
商圏の中で探すか、外から呼ぶか
母数が足りないときの打ち手は、大きく二方向です。どちらか一方を選ぶというより、自社の状況で優先順位を決める話になります。
| 商圏の中で探す | 商圏の外から呼ぶ | |
|---|---|---|
| 主な対象 | パート・時短希望者、ブランクのある有資格者、登録販売者、地元在住の潜在層 | 都市部の転職希望者、出身地へのUターン・配偶者都合のIターン、新卒 |
| 立ち上がりの速さ | 比較的早い(数週間〜数ヶ月) | 遅い(引越し・住居手配を含め数ヶ月〜) |
| かかる費用 | 労務設計・業務移管の手間が中心 | 住宅補助、赴任費用、紹介手数料などの現金コスト |
| 定着の考え方 | 生活圏が変わらないため離職要因が読みやすい | 生活基盤ごと動くため、初期の孤立対策が要る |
| 向いている状況 | 欠員が近い、常勤1名分をすぐ埋めたい | 中長期の増員、管理職候補を採りたい |
急ぎの欠員であれば、まず中で探すほうが現実的です。一方で、管理薬剤師候補のように育成に時間がかかるポジションは、外から呼ぶ準備を並行して進めないと間に合わないことがあります。後任の考え方は管理薬剤師の後任を、辞めると言われる前に用意するにまとめています。
中で探す:常勤1名を「1人で埋めない」設計にする
商圏内に常勤希望の薬剤師がいない場合でも、時間の制約がある有資格者は地域に残っていることが多いです。子育て中で夕方まで、親の介護で週3日まで、といった層です。この人たちは「常勤・土日あり」の条件文には反応しません。
やることは、募集条件を細かく刻むことと、薬剤師がやらなくてよい業務を切り出すことの二つです。
- 週2〜3日、9〜14時など、実際に応募できる時間帯で条件を書き分ける
- 常勤1名分の枠を、パート2〜3名で分担する前提でシフトを設計する
- 在庫管理、レセプト補助、店頭対応など、事務・登録販売者に移せる業務を洗い出す
- ブランクのある有資格者向けに、同行期間や鑑査体制をあらかじめ決めておく
業務移管を進めると、必要な薬剤師の頭数そのものが変わります。登録販売者の採用は薬剤師とは学校もスケジュールも違うため、混ぜずに設計してください(薬剤師と登録販売者、新卒採用の進め方はどう違うか)。
外から呼ぶ:移住コストを誰が負担するか決めておく
商圏外から呼ぶ場合、候補者が比較しているのは給与額ではなく、引越しと生活再構築の総コストです。ここを企業側が負担する設計になっているかどうかで、同じ年収提示でも見え方が変わります。
決めておきたいのは次の項目です。金額は事業規模や地域相場で変わるため、自社で試算したうえで求人票に明記します。
| 項目 | 決めること | 求人票での書き方の例 |
|---|---|---|
| 住居 | 社宅・借上げ・家賃補助のいずれか、負担割合、上限額 | 「借上げ社宅あり(自己負担◯円)」と実額で書く |
| 赴任費用 | 引越し費用の負担範囲、支給タイミング | 「引越し費用は当社規定により全額負担」 |
| 車 | 通勤に車が要るか、駐車場、車両手当 | 「車通勤可・駐車場無料」まで書く |
| 家族 | 配偶者の就業、子の転校時期への配慮 | 入社時期を相談可とする旨を記載 |
| お試し | 見学時の交通費、現地滞在の支援 | 面接時の交通費支給を明記 |
Uターン層を狙う場合、訴求の言葉は「地方で働きませんか」ではありません。**「実家の近くに戻る選択肢として、この仕事がある」**という順番で書くほうが届きやすくなります。出身校が近隣にある薬科大学の卒業生は、卒業後に都市部で就職しているケースも多く、学校との関係づくりが中長期の入口になります。この点は薬科大学・専門学校との接点がない会社が、最初にやることで扱っています。
地方勤務を「我慢」ではなく仕事の中身として語り直す
地方・郊外の求人が不利に見えるのは、条件面だけを並べて比較されるからです。実際には、都市部の大型店では得にくい経験が積める場合があります。
- 一店舗あたりの薬剤師数が少ないぶん、在庫・発注・監査・服薬指導まで一通り担当する
- 地域の医療機関が限られるため、特定の診療科の処方に深く関わる
- 在宅訪問や施設対応に、早い段階から入る
- 医師や看護師と直接やり取りする距離が近い
ただし、これらは「書けば伝わる」ものではありません。1日の業務の流れ、担当する処方の種類、入社何年目で何を任されているかを、具体的な事実として書き出す必要があります。抽象的な「アットホーム」「風通しが良い」に逃げると、条件比較の土俵に引き戻されます。価値の言語化の手順は中小薬局が大手チェーンとの採用競争で勝てる場所はどこかを参照してください。
二つを並行させるときの順番
現実的な進め方としては、次の順序になることが多いです。
- 商圏内の母数を確認し、原稿・母数どちらの問題かを切り分ける
- 直近の欠員は、業務移管と時間の刻み直しで圏内から埋めにいく
- 並行して、住宅・赴任の条件を数字で確定させ、求人票と自社採用ページに反映する
- 中長期の増員・後任育成として、圏外・新卒・学校ルートの接点をつくる
順番を逆にして、住宅補助の整備から始めると、条件を用意したのに応募が来ない期間が長引きます。すぐ効く手と、時間をかけて効く手を分けて置くことが要点です。
商圏の人口が少ない地域では、採用手法を増やすより先に「どこに母数があるのか」を確定させたほうが、費用も時間も無駄になりにくくなります。とはいえ、圏内の潜在層の見積もりも、住宅補助の水準も、社内だけで判断しにくいテーマです。
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